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24

総悟の姉、あいつが、ミツバが死んで数週間になる。綺麗なまま逝ったあいつの亡骸は近親者のみで静かに弔った。近藤さんは嗚咽を漏らしながら別れを惜しんでいたが、総悟は泣かずに気丈に振る舞っていた。最後の最後に、心から慕っていた姉を心配させまいとあいつなりの努力だったのだろうと思う。

ナマエはひどく総悟を心配していたし、それは俺も一緒だった。唯一無二の肉親が死んだとなれば精神的ダメージは相当なものだろうと思ったが、俺にはあいつを慰める資格もなければその術も知らない。そんな時に総悟の方からナマエとの時間をくれと頼まれた。きっと気晴らしに行きたいのだろうと思い二つ返事で許可をした。デート、とやらに誘われたナマエも嬉しそうで、総悟を心配しすぎてひどく落ち込んでいたナマエも同時に気晴らしが出来るのではないかと快く送り出したのだった。

それが、一週間程前。

総悟とのデートから帰って来たナマエはプレゼントされたという簪を身に付けとても嬉しそうにしていた。あいつの嬉しそうな顔を見ることが出来て一安心したのだが…問題はその後だ。総悟からのプレゼントを毎日嬉しそうに身に付けているナマエを見て、他の隊士達がことあるごとにナマエに贈り物をするようになったのである。

「ナマエちゃん、これ欲しいって言ってたろ。見回りついでに買って来たぜ」
「いいんですか?ありがとうございます!」
「ナマエさん!お菓子買って来たんで後で一緒に食べませんか!?」
「良いですね、三時のおやつにでも」
「ナマエさん良い酒が手に入ったんですけど…」
「ナマエさん、これ街で流行ってるらしくて」

ナマエさんナマエさんナマエさん、どいつもこいつも仕事そっちのけでナマエナマエと口々に言うもんだから流石に額に青筋が浮かぶ。

「テメェら!良い加減に仕事に戻りやがれ!ナマエもヘラヘラ受け取ってんじゃねェ!」
「………」
「…副長、あの…」

しんと静まり返ったその場に、やってしまった、そう思った時にはもう遅くて、ナマエは「すみません」と小さく呟いて食堂を出て行ってしまった。

「今のは土方さんが悪ィですぜィ」
「……」
「姐さん泣いてたんじゃねェですかィ」
「副長、俺らも悪かったっス。でもあれじゃナマエさんが…」
「…ったくあのバカ」

食堂を出て行ったナマエを追うべく腰を上げた。まだそう遠くまで行っていないだろう。

…そう思ったが、屯所付近ではナマエは見つからず、仕方なく市中見回りのコースとは違う河川敷を歩くことにした。ふと河原に目をやると、蹲る小さい影が一つ。

「ナマエ……悪かった」
「…私、素直に嬉しかったんです」
「あァ」
「私が簪つけてると沖田くんも嬉しそうにしてくれるし…他のみんなも、私が受け取ったらそれだけで嬉しそうにしてくれるんです」
「そうだな」
「私だって少し困ってたんですよ。毎日おやつもらうから少し太っちゃって」
「そうだな」
「あ、認めた。やっぱ太りました?」
「いや、流れだ。んなことねェよ、多分」
「もうやだ嫌い。あっち行ってください」
「…嫌い、か」

話の流れ、冗談だとわかってはいるがこいつからの「嫌い」は妙に胸に引っかかった。

「なァ、俺が何かお前に贈ったら、それも毎日身に付けるのか?」
「私が身に付けることで副長が笑顔になってくれるなら、喜んで付けます」

俺からのプレゼントを身に付けたナマエを想像すると、柄にもなく良いものだなと思った。

「うっし、なんか買いに行くぞ」
「え?この流れで?喧嘩してたのに?」
「夫婦喧嘩は犬も食わないって言うだろ。もうやめだ。俺が悪かった」
「鬼の副長が謝るなんて明日は土砂降りですか」
「さっきも謝ったろ。俺がご機嫌とりするのはお前だけだよ」
「ふふ、悪くないかも」

ナマエは笑顔を見せてスクッと立ち上がり、隣に座っていた俺に手を差し出した。

「ほら、デート行きましょう!」

久々に見た満面の笑みが眩しくて、何故だか泣きそうになった。

「しゃあねェ。ワガママな嫁さんに付き合うとするか」
「何買ってもらおうかな〜」
「さっきまで泣きそうな顔してたくせに現金なやつだな」

立ち上がる時に握った手は離されることなく、この時俺たちは初めてちゃんと手を繋いだ。

「副長の手って大きいんですね」
「お前の手はちっせェな」
「包丁握れたらそれでいいんです」
「ちっせェ手だから…俺がちゃんと守ってやんねェといけねェんだよな…」
「…はい」
「頼むからおとなしく守られててくれよ」
「…どうでしょうね」
「テメェなァ」

さっきの仕返しをされたのだと気付いた時にはもう遅く、してやったりな顔をして笑うナマエ。やられた、そう思っても不思議とそこに怒りの感情は微塵も生まれなかった。

「副長、守ってください。でも私も副長を守りたいです」
「それは…どうだろうなァ」

死んでいったあいつの二の舞にさせないように、できるだけ遠ざけておかなければならない筈なのに、自分からこいつの小さい手を離してやる気にはなれなかった。あいつの分まで、できることなら俺が守りたいと思った。

その日俺はナマエに帯留を贈った。
毎日身に付けてくれているナマエを見るとホッとした。

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