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17

局長に連れられ病院に来てから早三日。明日もう一度頭の検査をして異常がなければ退院して良いと言われているので、大人しくその時を待っているのだが…同室になった人がうるさくて、全然落ち着かない。

「ここ病院なんですけど、静かにしてくれませんか」
「誰のせいでこんな大怪我したと思ってるんですか」
「知りません」
「お前の元彼だぞ?知ってる?テロリスト!」
「ちょっとバカ!あんまり大きい声で言わないでよ」

何故こんなにも会いたくない人物にばかり遭遇するのだろうか。病室って普通男女別じゃないの?何で私はこの天パと隣同士なわけ?

「そんだけ元気ならさっさと帰りなさいよ。昔から体力だけはバカみたいにあるんだから病院なんてこなくても平気でしょ」
「だから誰のせいで大怪我をだな、お前アレだぞ、マジでヤバかったんだからな」
「語彙力喪失するくらいに」
「そうそうってお前バカにしてんだろ」

銀時と話すと気が紛れる。この人も副長と同じで、私の様子を伺いながら内容はどうあれ楽しい会話をしてくれているのだろう。

「しかしまァ…昔の仲間にも容赦なく斬りかかってくるとはなァ…」
「ショック?」
「いや…だが、そうさせちまったのは俺なのかもなァ…」

銀時と晋助の間になにがあったのかは知らないが、銀時も私と同じように晋助を救えなかったことを気に病んでいるのかもしれない。

「私もあのバカに会ったよ。今更嫁に来いだってさ。あのとき無理やりにでも連れて行ってくれてたら良かったのに」
「お前ェはいかなくて正解だよ」
「ついて行ったら少しは救えるのかなって思っちゃった」
「そいつァどうかね。ま、お前に無理だったら誰も救えねェだろうな」
「ああ、俺にも無理だった」
「キャアー!!!!!」

天井裏から突然人が降りてきて驚きのあまり叫んでしまった。だ、誰?

「おいヅラ、いきなりそこからの登場はヤベェよ。こいつ真選組で働いてるからね?見つかったら即逮捕だぜ?」
「え?ヅラ?小太郎?髪短い、なんで」
「イメチェンだ」
「斬られたって聞いたけど…」
「俺ほどのハイスペック人間がそう簡単に斬られるわけなかろう。」

どこからツッコミを入れればいいのかわからなくて頭痛がしてきた。ナースコールしてみようかな…

「お主、具合でも悪いのか」
「だから病院にいるんです。ちょっとマジで知り合いだと思われたくないからどっかいってお願い」
「むぅ…そこまで言われるとつらいものがあるが致し方ない。今日は銀時に差し入れを持ってきただけなのでな」
「あ?エロ本?ったく趣味悪ィな…俺はお前と違って人妻派じゃねェ。貰うけど」

ああ…早く退院したい。切実に。

「っていうか、ナマエって何で入院してんの?そういやあの週刊誌の副長とお前が結婚ってのも意味わかんねェんだけど」
「それはまた今度話すよ」
「団子でも奢れよ。あとうちに来る時は酢昆布持ってきた方がいいぜ」
「え、子ども達に酢昆布しか食べさせてないの?」
「んなわけねェだろ」

…ですよね。いつか見た無邪気に笑う子どもたちと、傍でそれを眺める優しい顔をした銀時を思い浮かべた。

翌日最後の検査を終えやっとの思いで迎えた退院の時間。迎えに来てくれたのは副長だった。

「もう大丈夫なのか?」
「傷はまだ残ってるけど、脳とかに異常はないから大丈夫だって言われました」

私がそう言うと、副長は頭に出来た傷を覗き込んだ。顔が近くてドキドキする。

「ちゃんと消えればいいけどな」

そうですね、と答えながら傷が消えても消えなくてもどうせ嫁に行くこともないだろうから関係ないか…と思った。晋助のこと、副長には伝えなければならないと思う。でも…言ってしまえば今のままでいられなくなる。そう思うと中々言えないでいた。副長はそんなどっちつかずな私の心情を読み取ったかのように、

「なァ…俺は、今回の件…一般市民のお前がただ事件に巻き込まれただけだと思ってる。だから…何も言わなくていいから、何も知らせないまま屯所に戻ってきてくれねェか」

…と言った。私の顔なんて見ずに、前だけ向いてそう言った。おかげで私は涙に濡れた汚い顔を見せずに済んだ。

「副長…っ…ありがとうございます…でもいつか、ちゃんと話させてください。それでその時は、屯所を去りますから」
「じゃあそのいつかが来ないように願ってるさ」

そのあとは私の家に着くまで無言だった。でも、やっぱり副長とだったら無言の空間も苦しくない。膨れ上がる想いにストップを掛けるのは寂しそうな晋助の顔と、沖田くんのお姉さんを想う副長の優しい顔。

「もうあの女はいねェから、安心して暮らせるだろ?荷物は運ばせてある。もし何かあれば電話してこい。仕事は明日まで休みにしてあるからゆっくり休めよ」
「はい」
「じゃ、俺ァ屯所に戻る」

私は、それだけ言って去ろうとした副長の腕を咄嗟に掴んでしまった。

「副長…もう、夫婦のフリする必要なくなってしまいましたね」
「何言ってんだよ。あの女は死んだがお前の母ちゃんは生きてるだろ。ちゃんとお前が本気で好きな奴と結婚するまで旦那のフリしてやるよ」
「そんなの…誰も現れなかったらずっと偽装の夫婦でいるってことですか…?」
「そんなに長いことは続かねェだろうよ。お前に相手を探す気があるんならな」
「私にそんな気なかったらどうするんですか、もう」
「はは、そりゃ困ったな」

大して困っていないようにカラカラと笑う副長の顔が眩しすぎて、今の私には直視できない。滅多に見せてくれない大好きな笑顔なのにそれを見るのが苦しい。こんなにも人を想うのは久しぶりすぎてどうしたらいいのかわからずにいた。

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