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18

久々に訪れた食堂には、所狭しと隊士が押しかけていた。

「残したら切腹ですからね!」
「いや〜ナマエちゃんの飯久しぶりだからテンション上がるな!」
「おばちゃん達の飯もうまいけど何かちがうんだよな〜」
「姐さんおかわり」
「俺も!」「俺も!!」

私の快気祝いだと言って局長から大量の酒が贈られたのだ。食堂では飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎが行われていて、普段ではありえないけどパートのおばちゃん達も文句を言いながら楽しそうに隊士達と酒を飲んでいた。

「土方さんなら部屋ですぜィ」
「そうなの?」
「事後処理に忙しいんだと。せっかく姐さんが帰ってきたのに連れねェ男でィ」
「仕事人間なのよ」
「ところで姐さん、これからずっと自宅から通うんですかィ?」
「うん。嫌がらせの犯人もいなくなっちゃったし、いつまでもここにお世話になる訳にはいかないでしょ」
「俺の部屋で良ければいつでも泊まっていって下せェ。何もしない自信はねェけど」
「ふふ、それは怖いなあ」
「人の嫁を口説くんじゃねェ」
「もう来やがったのか。一発もヤってない相手を嫁とは言わないんでさァ」
「ちょ、何てこと言うの沖田くん」
「事実だろ?え、もしかしてヤッ…「ってねェよ!!何言わせてんだ!!」
「土方さんがそんな初心だったとはねィ」
「んだとコラ!」

いつものように兄弟喧嘩のような争いが始まったので、私はそっと二人の元を離れ、今日の会を開いてくれた局長の元へとお酒を運んだ。まずは多大な迷惑をかけてしまったことを謝罪し、こんな素敵な快気祝いの会を開いてくれたことに感謝の意を伝えた。

「なに、感謝しているのは俺の方さ」
「え?」
「君がここに来て総悟やトシだけじゃなくて…みんなの心の拠り所になってくれているだろ?自覚はないかもしれないが君の飯が俺たちをここに帰ってこようと思わせてくれるのさ」
「そんな、滅相もないです」
「君がどう思おうとそれが事実。君がここに戻ってきてくれて嬉しいよ」
「私も、もう一度ここに戻る事が出来て良かったです。何も聞かずに置いてくれて感謝しています…」
「俺たちは警察という組織の末端かもしれないが、真選組の中では俺がトップさ。俺が気にしないんだから、君は何も気にせずにこれからも美味いメシを作ってくれ」
「ありがたいです。私で良ければ」

カチンとグラスを合わせて局長と一緒に酒を煽った。この時は三十分もしない内に裸踊りが始まるとは思いもしなかったのだが、それも含めてここの局長の良さであり、懐の深さであるのだ。上に立つ者であっても常に他の隊士と目線を合わせてくれる。それが隊士でなく、私のようないち女中であっても。真選組と出会えたことは私にとって一生涯の宝モノだ。良い人ばかりの真選組だからこそ、後ろめたさを感じずにはいられなかった。

あの事件から一週間ほど経ち、私の生活も今まで通りになった。早朝自分の家を出て屯所まで通い食事を作り翌朝の準備をして帰宅するという、何もなかった頃の生活に戻ったのだ。たまに沖田くんからおやつをねだられた時は快く引き受けている。副長に禁止されてはいるが美味しそうに食べてくれる姿が嬉しくてつい甘やかしてしまうのだ。お前が甘やかすからいけねェんだ、と何度か小突かれたが…可愛いものは可愛いんだから仕方ない。副長だってなんだかんだ言いながら十分沖田くんを甘やかしていると思うんだけどなぁ…。

「沖田くん、おやつここに置いとくからね」
「あざーす。姐さん今日はもう上がりですかィ?」
「うん。夕飯は唐揚げだから、ちゃんと食べてね」

今日はシフト調整のために午後から休みになった為、銀時の元を訪ねようと思っている。色々と話さなければならないし、謝罪もしたい。

「銀時ー、いますか?」

言われた通り酢昆布を持参して、前に一度訪れたことのある銀時の家へとやってきた。

「はい、今開けます。ってナマエさん?」
「新八くん、こんにちは」
「どうしてナマエさんが?銀さんと知り合いだったんですか?」
「まぁね、腐れ縁だよ。で、銀時はいる?」

迎えてくれた新八くんに銀時の所在を尋ねると、すぐに奥の方から銀時と可愛らしい女の子がやってきた。

「いるぜー。入れ。新八は神楽とどっか行ってろ」
「いいですけど…」
「何を隠れてシコシコするアルか?」
「そんなんじゃねェよ。ほら行った行った」
「お姉ちゃん、銀ちゃんになんかされたら大声で叫ぶアルよ」
「うん、心得た」
「何もしねェよ!誰があいつのお古に…」
「ちょっと、何て言い方するの!」

しょうもない争いを続けていると、新八くんと神楽ちゃんという名の女の子が物凄く冷めた目でこちらを見ている事に気付いた。屯所で副長と言い争いをしている時の周りからの視線を思い出す。はあ…ここでもやってしまったか。

「ごめんね、大事な話するの」
「僕らは席を外しますから、ゆっくりしていってください。あ、姉上がまたナマエさんと話したいって言ってたので、いつかまた家に遊びに来てくださいね」
「うん、そうするね。お妙ちゃんにもよろしく」
「ナマエっていうアルね!ナマエ、私は酢昆布が好きヨ。ここに来る時は酢昆布持ってくるヨロシ」
「あ、持ってるよ。ハイどうぞ」
「神か!神なのか!ナマエ大好きアル…!」
「酢昆布で釣られるたァやっすい女だなお前ェ」
「銀ちゃんほどじゃないアル」
「お前…!言ったな!」

子供達が銀時によく懐いているのがわかる様子に思わず笑みが零れる。それに、銀時もこの子達には心を許しているのだろう…驚くほど穏やかな顔をしていた。

「で、何を話しに来たわけ?」
「とりあえず謝りたくて。色々迷惑かけてごめんね」
「お前に迷惑かけられた覚えはねェよ」
「ううん、いつも銀時には迷惑かけてる。今も昔も」
「そんなつもりはねェんだけどな」
「あとね、私が何で病院にいたのかなんだけど…」

二人きりになった室内でぽつりぽつりと事の顛末について話を始めた。松平長官が副長に見合い話を持ってきたこと、私にも見合い話があったこと、双方の見合い話を角を立てずに断る為に結婚を前提に付き合っていると嘘をついたこと。その嘘が原因で副長の見合い相手から嫌がらせを受けたこと、そして…その人が晋助と繋がり私を事件に巻き込んだこと。

「病院にいたのはそんな訳があったんだな。で、あいつらはお前と高杉のこと…」
「ううん…まだ、言ってない。言わずにこのまま屯所に居て欲しいって。今回の事件は一般市民が事件に巻き込まれただけのことだから、何も言わなくてもいいって」
「お前、大事にされてんだな。でもな、今回こんだけ簡単にお前の素性がバレそうになってんだから危機感持てよ。いつ何時また巻き込まれるかわかんねェし、高杉に恨みを持ってる奴も真選組の連中に恨みを持ってる奴らも大勢いるってこと忘れるな」
「うん」
「どっちにしてもお前の存在は彼奴らの弱味になる。それに漬け込もうとする輩も居るはずだからな。ま、なんかあったら銀さんを頼りなさい。俺は中立だ」
「またそうやって荷物背負い込む…無理しなくてもいいよ、もう手一杯でしょ」
「手一杯なら足を使えばいい。お前の細っこい体なら背中にでも肩にでも乗せてやらァ」

どうしようもなく優しくて、自分を犠牲にして救えるなら全て救おうとしてしまう人だから困る。

「とにかく、お前はまだ真選組に居たいんだろ?だったらそうすりゃいい。何か起こったらそん時ゃそん時さ」

…私は迷っていた。本当は真選組に居たいし彼らの役に立ちたい。あそこに居れば迷惑をかけるのはわかりきった話なのに晋助の隣に居られなかった私が漸く見つけた居場所を簡単に手放す勇気もなくて。局長も副長も真選組に居てくれと言ってくれるし、沖田くんも慕ってくれる。端から見れば離れる必要なんてないのかもしれないが、今回の件が真選組に居続けることが簡単ではないことを知らしめたのだ。それでも銀時は私が真選組に居続けることを否定しないでいてくれた。それが銀時の優しさだとわかっていても第三者に言ってもらえると私の決断が迷惑になっていないと言われているようで安心できた。

「銀時、ありがとう」

この人に再び出会ってしまったこと、最初は後悔していた。でも…今は感謝している。

感謝の気持ちを込めて手料理を振る舞えば「やっぱり美味いな」と懐かしむように食べてくれる姿が嬉しくて次から次へと料理を出すとギブアップと言われた。いつも屯所では何十人分とまとめて作っている為に一人分の分量にしては多かったようだ。青い顔をしてもう無理と口を押さえる銀時と余った料理を交互に見て、余らせるのも勿体無いと銀時の隣に腰を下ろして料理を口に運ぶ。

「美味しい」
「ああ、美味かった」
「お粗末様でした」
「しかしお前美味そうに食うな」
「副長にも言われた」
「はは、誰が見ても思うさ」

銀時の笑顔はいつでも周りを笑顔にしてくれる。銀時の暖かい笑顔を見て、何となく副長を思い出していた。

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