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14

屯所に居候していた要人様の警護が終わり、客間が空いたことから私は副長の部屋から客間へ移り住むことになった。沖田くんは私と副長が同じ部屋にいる間に何か起こることを期待していたようだが、結局なにも起こらないままだったので少々不機嫌そうな顔をしている。

「大の大人が二人揃って何してんでィ。一発や二発しけ込んでくりゃいいものを」
「あのね沖田くん、うちの旦那様は沖田くんのお陰で書類整理で忙しすぎて私なんか相手にされないのよ」
「皮肉たっぷりだねィ。あんたも実は構って欲しかったんだろィ?」
「はいはいバカなことばっかり言ってないで早く食べて。ね、今日は市中見回りなんでしょ」
「よくご存知で」
「ちゃんと送り出すように頼まれてるの」

あの鬼めと口を尖らせてブツブツ文句を言う沖田くんはとても愛らしい。いつか私のことをお姉さんに似ているの話してくれたことがあったが、私も彼を弟のように思っているのかもしれない。

「ほら、お仕事頑張って」
「今日のデザートは?」
「頂き物のどら焼きがあったはずだから取っておくね。見回り終わったらお部屋に持っていくから」
「サンキュー」

じゃあちょっくら行ってきやす。と朝食の食器を下げた沖田くん。皿の中は全て綺麗に空になっていて、普段の行動からは想像もつかないような育ちの良さを伺わせる。沖田くんはどんな風に育ったのだろう。お姉さんに一度お会いしてみたいな…。そんなことを考えていると屯所の入り口の方ががなんだか騒がしくなった。また急な来客だろうか、松平様とかだったら大変だろうなぁと思っていると、副長の怒鳴り声のようなものが聞こえてビクッと肩を竦めたところで今一番会いたくない人が目の前に現れた。

「ってめェ!業務執行妨害でしょっぴくぞ!」
「ちょっとお宅の料理当番に話があるんだけど貸してくんない?」
「大体なんの権限があって、」
「おいナマエ、ちょっとツラ貸せ」
「ちょっと銀時、いくらなんでも急すぎでしょ、それにここじゃあ…」
「うし、わかった。ってことで大串くんこいつちょっと借りてくから」
「おい!万事屋!!ナマエも!」
「副長、あの…ちょっとだけお時間頂けませんか、ちゃんと帰ってきますし…この人こう見えても強いから多分大丈夫ですので」

苦虫を噛み潰したような顔をした副長の横を銀時に手を引かれて通り過ぎた。

「ちょっと痛い、痛いってば!そんなに引っ張らなくてもちゃんと歩くから!」
「お前ェな!江戸にいるなら連絡の一つくらい入れたらいいだろ!あいついなくなったあと、俺らがどんだけ心配したか」
「ごめん、それについては謝るから」

連れてこられたのは万事屋という看板が掲げられた家だった。聞けばここは銀時の自宅兼仕事場となっているらしい。今ガキ共はいねェから安心しろと言った銀時の後に続いて階段を上る。ガキ…?と一瞬思ったが新八くんと可愛らしい日傘の女の子のことを言っているのだろう。

「お前何であんなとこにいんの」
「あんなとこって真選組?良いところだよ、みんな優しいし、お給料も良いし」
「そういうことじゃなくてだな。天下の大罪人の女がどうして警察に身を置いてんのか聞いてるんだよ」

…なんと答えれば銀時は納得してくれるんだろうか。一番近くにいながら、あの人が闇の中に落ちていくのを黙って見ていた私が、過去から逃げ回る私が何を言えば、

「…この間、祭にアイツが来てたらしいぜ。らしいっていうか会ったんだけどよ。昔の仲間にイキナリ斬りかかろうとしてきやがった。どうかしてるぜ、アイツ」
「大丈夫だったの…?」
「俺が負けるわけねェだろ、アホ」

銀時は優しいから、きっと私が話すまで待ってくれる。そういう優しさがなんとなく副長と似ている気がした。

晋助が地球を飛び出して行ったあと、戦争に参加した銀時達は犯罪者として警察に追われる身となった。散り散りになった彼らはそのまま、私の知らないところへと消えていった。

私は私で、父が残した店を手伝いながら限界を感じていた。父の忘れ形見を守りたい母の気持ちも、幼くして父を亡くし、少しでも父の温かみを感じていたい弟の気持ちも痛いほどわかったが…自分たちの生活を犠牲にしてまで続ける必要は無いのではないか、そう疑問に思い母に問い掛けた。

母は、わかってはいるけど捨てられないと言った。父の店の存続について議論していた時に舞い込んできたのが最初の見合いの話だった。近所のお節介なオバさんが年頃の私に縁談をと話を持ってきたらしい。相手は大層な金持ちで、婿入りし父の店の経営を一手に引き受けると言っているらしい。母は私に頭を下げどうかお婿さんをもらっておくれといった。…冗談じゃない。思い出は綺麗なままとっておきたいのに、大好きなお父さんのお店で、知らない男を婿にして、思い出を汚されるのはどうしても嫌だった。

「それで飛び出したワケ」
「…うん。そしたらたまたま真選組で女中を募集してて」
「あいつは知ってんの?」
「私が真選組にいること?知らないんじゃない?っていうか、私の存在すら忘れてるかもしれないじゃない」
「それはねェだろ」

銀時は窓から天人の船が浮かぶ空を見上げてそういった。

「で、ちゃんと生活できてんの?お袋さんは?」
「十分過ぎるくらいお給料貰ってるよ。お母さんは…何回かお見合いさせられそうになったけど、それも落ち着いた。お店はまだやってる」
「…俺、今万事屋ってのやってんだ。困ったことあったら連絡しろよ。な?」
「銀時、私はもうあの人の女でもなんでもないし…そんなに心配しなくてもいいよ。銀時だって戦争に参加してたことがバレたら危険だし…」
「それでも俺ァほっとけねェよ。せっかく近くにいるんだからなんかあったら大人しく頼んなさい。な?」
「うん…ありがと」

話しを終えると銀時はスクーターで私を屯所まで送ってくれた。屯所に着いてすぐ、待っていましたと言わんばかりに銀時に噛み付く副長がいて、それをヒラリとかわす銀時。夕飯の時間が迫っているのに言い争いは終わらず、仲裁を諦めた私はしのび足で屯所に逃げ込むのだった。

夜になり、仕事を終えた私は部屋に帰る前に副長の部屋に寄った。なぜなら今日のことについて話しておかなければならないだろうと思ったからだ。

「酒か?」
「少し付き合って下さい。飲みながらお話ししたいことがありますので」

副長にお猪口を渡し、酒を注ぐ。副長はそれをクイっと飲み干した。

「お前も飲むのか?」
「少しだけ」

私も副長にならって、注がれた酒をクイっと飲み干した。

「あの、私と銀時のこと気にしてらっしゃるのではないかと思いまして」
「ああ…無理して話さなくてもいいぞ」
「副長には話しておきたかったので」

銀時が攘夷志士であることは隠した上で、昔馴染みであることを話した。銀時と私は、あるひとりの男を介して知り合ったこと、その男は私の彼で、銀時の友であったこと。その男は攘夷戦争が終わった後に姿を消し、銀時はひとり残された私のことを心配してくれていたこと…。

「あんまり言いたくなかっただろ?わざわざすまねェな」
「旦那様に隠し事なんて出来ないでしょ?あ、もしかして嫁の元彼の話とか聞きたくなかったですか?」
「はは、そりゃそうだな」
「ついでに言うと、局長がストーカーしている相手はうちの近所の道場の娘さんで、その弟が万事屋に奉公に行っているそうですよ。世の中狭いですね」
「ほォ…そんな偶然あるんだな」

お互いにほろ酔いとなり、少しばかり距離も近くなった。手が触れそうなくらい近くにいるのに、それ以上近づくことはなくて何となく寂しい。

「ねぇ副長、沖田くんが私のこと少しだけ姉上に似てるって言うんです。沖田くんのお姉さんってどんな人ですか?」
「あ?ああ…アイツは…、弟思いのいいやつだよ」
「ご健在、なんですよね?」
「まァな。俺ももう何年も会ってねェ。少しばかり肺を患ってると聞いてる」
「そう、ですか」

あまり、良い話題にならなかったようだ。病気持ちであれば気軽に弟である沖田くんに会うことも出来ないのだろう。実家にいる自分の弟を思い出し、さらに寂しい気分になってしまった。

「副長、お付き合いありがとうございました。片付けてから寝ますね。遅い時間にすみませんでした」
「ゆっくり休めよ」

副長の部屋を後にし、廊下から月を眺めた。優しい光を見上げると自然と涙が出た。−−−なに、あれ…。あんな優しい顔の副長見たことがない。

(弟思いのいいやつだよ)
他の誰かを想う人を、好きになってしまうなんて…バカみたい。

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