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13

副長が目を覚ますのは早朝、寝るのは日付が変わる頃だ。現場に出るだけでなく、書類の整理や、与えられた任務を遂行するために念入りに計画を練る事も真選組の頭脳の要である副長の仕事のようで、彼には休まる時間が無いように思える。

私は朝食時の当番だったとしても朝六時に起きれば間に合いはするのだが、部屋を借りている身として副長のアラームで起きざるを得ない。副長が仕事をしている横でグーグー寝ているわけにも行かず、お茶を出したり簡単な書類仕事を手伝ったりしていた。

「お前無理して早起きしなくていいぞ、昨日も遅くまで仕事してたろ。眠くねェの」
「副長が起きてるのに同じ部屋で寝てられないです。この際すっぴんについては諦めるけど寝顔は出来るだけ晒したく無いので」
「覗かねェよ。っていうかもう何べんか見たしいいだろ別に」
「乙女心です」

一応部屋の隅に衝立(ついたて)を用意してくれているので着替えをするのも抵抗は無いし、寝る時はその衝立を挟んで寝るのでプライバシーは確保できているが何となく抵抗がある。…まあこれは建前であって、副長の気遣いは有難いが本来なら気を遣うべきは私の方なので感謝の気持ちを込めて手伝いをしているというわけである。

「あの、今日の朝食が終わったら買出しに行ってきてもいいですか」
「ひとりで行くなよ。俺が付き合う」
「え、でも今日は仕事があるんじゃ」
「後処理が大変な面倒ごとに巻き込まれるより良いだろ」
「そうですね」

そんなこと言いながら、きっと客間を占領している性格の悪い要人様の相手をしたくないのであろう。副長は気難しそうに見えて、案外わかりやすかったりもするのだ。

ふと外を見ると日が昇り始めていて、時計を見ると六時半を指していた。

「朝食の用意に行ってきます。副長も遅れずに来てくださいね」
「そうだな、楽しみにしてる」

料理を楽しみにしてくれる人がいるというのはとても嬉しいもので、私は気持ちを弾ませながら厨房へと向かった。

今日は朝から屯所内がピリピリムードだ。なんでも屯所に居候している要人様が無茶な要望ばかりを隊士に押し付けているらしく、いくら要人警護とはいえ隊士の怒りは爆発寸前のようだ。

「まあまあ、お前ら、泥仕事してきた俺らにはもったい無いくらいの綺麗な仕事じゃねェか!もう少しの辛抱だ。な?終わったら美味い酒みんなで飲もうじゃねェか!ハッハッハ!」

こんな状況でも局長は朗らかに笑うのだから、この人には本当に敵わないなあと思う。どんなに嫌な人でも懐に抱き込んで家族の様に扱うのだから。さっきまで顰め面をしていた隊士達も、局長が言うなら仕方ないとばかりに穏やかな顔を見せていた。

「おいナマエ、買出し行くぞ」

隊士たちの朝食が済み、茶碗を洗っていると副長から声をかけられ慌てて準備をした。肉も魚も野菜も足りないものばかりでとても歩いて持ち帰ることができない量だったため今回は特別に車を出してもらうことになった。

「大江戸スーパーでいいんだろ?」
「はい。助かります」

スーパーに着きカートを押しながらメモと照らし合わせて商品を選ぶ。マヨネーズは業者と契約して直接屯所に卸してもらった方が良いのではないか…と思いながら業務用マヨネーズを五本ほどカゴに入れたところで副長は一服してくると言い、外の喫煙所へ向かった。

「あの人、私がちゃんとマヨネーズ買うか確認したかっただけでしょ…」

買い物が終わりカートに大量の荷物を載せて外に出る。荷物があまりにも多いため一度車に積んでからカートを返そうと思い、車の鍵を持っている副長を探すと誰かと話しているようだった。多少言い争っているようにも聞こえて声をかけて良いのか迷ったものの大荷物を持って立ち尽くしているわけにもいかず…私は意を決して副長に声をかけた。自分でこの行動を呪うことになるとは知らずに。

「副長、終わりまし…た…」
「おお、帰るか」
「…え?は?ちょっと待って何で大串くんとナマエ?お前こんなところで何して、」
「だから大串って誰だコラ!あ?お前ら知り合いか?」
「知り合いも何もナマエは俺の昔馴染みで、だってお前こいつら真選組だろ」
「…副長、帰りましょう」
「…いいのか」
「大丈夫です」
「おい、ナマエ!」

(こんな場所でこんな形で銀時に出会うとは思わなかった…)

帰りの車の中はとても気まずい空気だった。本当は副長が私と銀時の関係を聞き出したくてウズウズしているのはわかっていた。でも副長は何も聞かずにいてくれて、私はその優しさに甘えた。

「なァ、今日の晩飯なんだった」
「えーっと、朝が魚だったから肉料理のはずですよ、ちょっと待ってくださいね、えーっと…」
「お前ボケるにはまだ早いんじゃねェの?」
「失礼な…ボケてなんかいませんよ、もう」
「頭の体操が足りないとみた。今夜また書類整理付き合え」
「うわ、パワハラですよそれ」
「何でもかんでもハラスメントにしてんじゃねェよ、副長命令だ」
「残念、私は隊士じゃないです」
「じゃあ可愛い可愛い嫁さんに、旦那様からの頼みだ」
「それなら仕方ないですね」

気を遣って笑わせてくれてるとわかっていながら甘えてしまう。最近覚えた悪いくせだ。

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