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9

あの人から離れるために彼が身を置く世界と正反対の場所に身を置いたのに…いつの間にかどんどん彼に近づいてしまっているのだと知る。…真選組は晋助を追っていて、嫌でも情報は入ってくる。それに思いがけないところで銀時の消息を知ってしまった。どうしてだろう、どこで間違ったのだろう。一介の町娘として生きていた方が良かったのだろうか。

悶々と考えたところで答えは出ない。第一悩む必要があるのだろうか。晋助は…もう私のことなど覚えていないのかもしれないのに。

「それはそれで寂しい気がする…」

なんて自嘲気味に呟いてみても返答してくれる人はどこにもいない。当たり前だ、ここは私一人しかいない私の部屋なのだから。

−−−ピピピピ

物思いに耽っていると静かな部屋に着信音が鳴り響く。見知らぬ番号からの着信だった。普段は登録していない番号からの電話には出ないのだが、なんとなく出てみると副長の声がした。休みのところ悪いが、夕方から出る予定だった女中が来られなくなったから代わりに出てくれないかと。大丈夫ですと二つ返事で答えると、今から行くとそれだけ告げて一方的に通話は切られた。

五分経っただろうか。副長から再び着信があり、近くまで来たから出てこいとのこと。副長直々の迎えとは、何とも恐れ多い…。

「すみません、お手数おかけしました」
「いや、休みのところすまねェ」
「っていうか副長私の家知ってましたっけ?」
「あ?お前の履歴書見たら一発だろ」
「ヤバイ個人情報漏洩してる」
「諦めろ。嫁の家くらい知ってて当然だ。っていうか夫婦が別々に住んでること自体どうかと思うけどなァ?いっそ屯所に住むか?迎えに行く手間も省けるだろ」
「私を社畜にするつもりですね。鬼副長と一つ屋根の下とか無理です色々」
「何が無理だよ言ってみろコラ」
「いひゃいいひゃい」

頬をギュッと引っ張られ、何とも言えない顔になる。ああもう!運転してる途中にイタズラしないでくださいよ危ないから!と私が言うと副長は少し笑ってそんだけ口答えする元気があるなら大丈夫か、といった。

「え?私なんともないですよ?」
「いや、電話口の声が元気ないように聞こえたんだが…気のせいだったらしいな」
「心配してくれたんですか?」
「あァ?図に乗るなっつーの。女中がいなきゃ飯が食えねェだろ」
「はいはいそうですね」

ふふふ、と自然に笑いが出た。なんだかんだいって人の上に立つ人なだけあって、周りの人間の変化には敏感なのだろう。全く損な性格の人だ。

「今日のメニューエビチリだったけど副長の分だけ特別にエビマヨにしてあげます」
「マヨ多めな」
「了解です」

副長の隣を心地よく思ってしまっている自分に嫌気がさした。

「悪ィな、休みだったのに呼び出した挙句こんなに遅くなっちまって」
「お仕事ですから。お給料もらえる分はちゃんと働きますよ」
「現金なやつめ」
「働かざる者食うべからずですよ。食べる為には働いてお給料頂かないと」
「そりゃそうだ。どっかの誰かに聞かせてやりてェな。お前あいつのこと甘やかしすぎじゃねェの?」
「あいつって沖田くんですか?甘やかしたくなるのも仕方ないくらい可愛いじゃないですが。やんちゃがすぎるけど」
「あんまり調子に乗らせるんじゃねェぞ。とばっちりは俺に来るんだ」
「そうですね、気をつけます」

誰もいなくなった食堂で副長と二人きり。私は明日の仕込みを、副長は遅すぎる夕食を。副長は、彼だけの特別メニューのエビマヨを美味しそうに頬張っている。

「これ終わったら帰りますね」
「俺ァもうひと仕事だ。送ってやれなくて悪ィ。手が空いてる隊士はいくらかいるから送ってもらえ。ひとりで帰るんじゃねェぞ」
「また心配してくれてるんですか?大丈夫大丈夫。私なんか襲うやついませんから」
「その油断が仇になんだよ。こういう時は素直に旦那様の言うこと聞いておけっての」
「はいはいそうします」

なんて軽口は叩いたものの、せっかく休んでいる隊士に頼むこともできずに私はひとりで屯所をあとにした。

はぁ…星が綺麗。澄んだ空気を体いっぱいに吸い込むと、私の悩みごとなんて馬鹿らしい気がしてきた。たまには一人で晩酌でもして嫌なことは忘れるとするか、と思い立ちコンビニに寄り酎ハイをいくつか手に取り、適当につまみも買って上機嫌で歩く。晩酌なんて久々だなぁ、今日は何か面白いテレビ番組あるかなぁ。先ほど買った期間限定の甘ったるそうな酎ハイの味を想像すると少しだけ早足になった。

「ん?」

アパートに着き、郵便受けに目を向けると、投函口から白い紙らしきものが見えていた。取手をつまみ、戸を開くとバサバサと紙の束が落ちてきた。

「なにこれ」

何のいたずらか、それらの紙には何も書かれていなかった。

「人の家のポストをゴミ箱代わりにするんじゃないよ全く…」

近所で見かけるガキ大将を思い出し、舌打をしながら階段を上がった。

「はぁ〜、今日もお疲れ様でした!」

風呂上がり、一気に流し込んだ酎ハイは想像以上に甘かった。

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