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8

(ああ…嫌な夢を見た…)

鏡を見ると、夢のせいか疲れ果てた顔をしていた。こんな様子ではまた副長にいらぬ心配をかけてしまうかもしれないので顔をパチンと叩いて気合いを入れて身支度を整えた。

「あら、ナマエさん今から出勤ですか?」

外に出るとご近所の志村さんのところの長女、お妙ちゃんと出会った。幼い頃にご両親を亡くしながら、お父上が残した道場を守る立派な女の子だ。

「おはよう、お妙ちゃん」
「最近弟が働きに出てるんですけど…まあそこがトラブルだらけで、今度話を聞いてください。相談したいこともあって…」
「うん。時間が出来た時にまた連絡するね」
「楽しみにしてます」

そう言ってニッコリ笑ったお妙ちゃんの弟の新八くんとうちの弟は年が近いので、なにかと共通点があって仲良くさせて貰っている。お妙ちゃんも新八くんもとてもしっかりしていて仲の良い素敵な兄妹だ。

「おはようございま〜す」

屯所の食堂について、パートのおばちゃんたちに挨拶を交わしながら朝食の準備を整える。毎回のことだが量が多いので厨房はまるで戦場だ。ざわざわと隊士達が集まってくる時間になれば調理、配膳、洗い場、それぞれの担当の場が忙しくなっていく。

「おい聞いたか?昨日の」
「ああ、局長が負けたってやつだろ?」
「あれマジだったのかよ」
「相手はめちゃくちゃ強い銀髪の侍らしいぜ?」
「女取り合って負けたとか」
「えーマジかよ!」

忙しく手を動かしながらも隊士達の話し声に聞き耳をたてる。局長が負けた?そんな話があるわけない。この荒くれ者ばかりの真選組を束ねる局長なのに。

(それに相手は銀髪の侍?)

局長が負けた局長が負けたと、食堂内はその話題で持ちきりだった。詳しい内容はわからずとも、こうも局長のメンツが危ういような噂が立てば黙ってないのがNo.2だし、まるで父のように局長の事を慕っている沖田くんなんて静かにブチ切れているようだった。怖い怖い。

「沖田くん、ちゃんと食べてる?」
「ああ。今日は銀髪の侍を仕留めに行く日なんでねィ。腹拵えはバッチリでィ」
「あんまり無茶しないでね」
「今度こそ土方さんに良いところ持って行かれない様に頑張りやす。帰ったら甘いもの食べてェな」
「プリンで良ければこっそり冷蔵庫に入れとく」
「マジでか。姐さん愛してらァ」

局長を倒したと噂されている銀髪の侍ってのが私が想像している人であるならば…いくら真選組とはいえ一筋縄では行かないだろう。そんなことを思いながらひとり静かに溜息をついた。

「いててて!…畜生もうちっと優しくできねェのかよ」
「文句言わないで下さい。大体医療班にやらせればいいでしょう?何で私なんですか。もう帰るところだったのに…」
「あいつらにこんな傷見られてたまるか。タダでさえ近藤さんが負けたって困惑してるのにその上俺までやられたなんてシャレになんねェ」

局長の敵討とばかりに鼻息を荒くして屯所を出て行った隊士達だが、最終的に因縁の相手に辿り着いたのは副長だったらしい。一部始終を見ていた沖田くんによれば結構いい勝負だったらしいが、最後は副長の刀が折られ真選組は二連敗したという。

「どんな相手だったんです?」
「万事屋とか言ってたな。のらりくらりと胡散臭い野郎だったよ」

事の発端は、局長がとあるキャバ嬢に惚れてしつこくつきまとったことにあるそうだ。困り果てたそのキャバ嬢は万事屋を名乗る銀髪の侍に依頼をし、今回のことに繋がる。

「それ100パー局長が悪いですよね」
「全くだ」
「そしてよっぽど強い相手だったんですね」
「あいつは間違いなく民間人じゃねェ。あれは侍の目だ」
「あの、違うなら違うで良いんですけど…天パでした?」
「なんだ?お前知ってんのか?」
「ちょっと心当たりがあるくらいです。さ、手当終わったから私上がりますね」

もう間違いない。副長が戦った相手は銀時だ。いつ江戸に来ていたのだろう…。出来れば思い出したくない、もう会いたくない人だ。

シフト調整の関係で久々に出来た昼からの時間をどう使おうかと帰りながら思案していると、再びお妙ちゃんに出会った。あ、そういえば今度話を…とか言ってたってけ、

「お妙ちゃん、今から時間ある?良かったら朝言ってた話とかしながらお茶でも」
「まあ本当ですか?是非」

こうして私は帰宅することなくお妙ちゃんと共に出かけることになった。

「〜〜〜〜で、もうそのゴリラストーカーがしつこくてしつこくて!」

でにぃずでパフェを前にして、拳を握りながら話すお妙ちゃん。なんかこう…リンクする場面がありすぎるような…。気のせいであってほしいんだけど色んな人の話がリンクしちゃってないかなこれ、

「新ちゃんがワケあって働き出したところが万事屋っていうんですけどね?その万事屋の坂田っていう給料も払わない天パオーナーに新ちゃんの給料の代わりに彼のふりをしてもらったんです!そしたらまたややこしいことになってしまって…あら?ナマエさん顔面蒼白ですけどどうしました?」

…ということはあれか、局長がストーキングしているのはお妙ちゃんで、そのお妙ちゃんが彼のふりを頼んだのが銀時で、局長は銀時に負けて、敵討ちに行った副長が再び負けたと。

「あー…頭痛い」
「大変、具合が悪いんですか?帰ります?」
「うん…ごめん、悪いけど今日はそうさせてもらうね」

このままだとストーキングゴリラや天パやら色々な面倒な人物に会いそうな気がする。面倒事に巻き込まれる前に、そう意気込んで私達はでにぃずを後にした。

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