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事故から1ヶ月が経った。
つまり、俺が名前の記憶を失ってから1ヶ月。まだ記憶は戻っていない。しかしながら俺と名前の生活は順調だ。

キスだってしたし、それ以上のことも何度か。名前が妊娠中ということもあって本番こそないが、夫婦らしくそれなりにいやらしいことも何度かした。

「銀さん、今日は依頼があるんでしょう?早く行かなきゃ」

「まだ大丈夫だからもうちょいこのまま」

名前の太ももに頭を乗せたままダラダラしているとガキ共の蔑むような視線が突き刺さる。

「記憶失くす前よりひどいですね、その甘えっぷり」

「さっさとしろヨ」

「ほら、いってらっしゃい」

「ったく…夫婦水入らず邪魔すんな」

「仕事終わったらいくらでもイチャイチャすればいいでしょ。行きますよ」

名残惜しいが名前に別れを告げ、新八と神楽と共に万事屋をあとにした。

「それにしても銀さん、名前さんに甘えすぎですよ」

「胸焼けしそうネ」

「あんな別嬪さんが俺の奥さんだぜ?普通ああなるだろ。独占欲しかわいてこねェわマジで」

「記憶戻らなくてもいつもの銀ちゃんネ」

「俺ずっとこんな感じ?」

「そりゃあもう。四六時中ベッタベタ」

発言こそトゲがあるが、新八も神楽もどこか嬉しそうに名前と過ごしていた俺の話をしていた。俺と名前がどうなってしまうのかと、こいつらなりに心配してくれていたのだろう。

「なァ、やっぱり記憶が戻らないと、名前を傷つけるだろうか」

「そりゃそうネ。思い出共有できないのは悲しいことアル」

「だよなァ」

今の幸せな日常があるせいで、自分自身に名前との思い出がないことを忘れそうになるから怖い。日常に満足して、思い出さなきゃいけないことを忘れてしまいそうで。

「銀さんが不安がってたら名前さんはもっと不安になりますよ、アンタがしっかりしないでどうするんですか」

「そりゃそうだ。うし、ちゃっちゃと片付けて名前のところに帰るぞォ〜」

「はいはい、仕方ないですね」

「私今日はアネゴのとこ泊まるから、銀ちゃんは名前と好きなだけイチャイチャするヨロシ」

「え、いいの?」

「今日だけアル。明日の朝には戻るからナ、いやらしいもの子供に見せるなヨ」

「へいへい」

ことあるごとに俺と名前を二人きりしてくれる神楽。名前を母のように慕っている神楽にとって、名前と離れている時間は寂しいものなのだろうが、俺のためにそうしてくれているのだろう。名前にも神楽にも寂しい思いをさせないように、早く記憶が戻ればいいのだが。


「はァァァァァ〜疲れた…」

「銀さんお帰りなさい。お風呂沸かしてありますよ」

「サンキュー、ちょっとゆっくりしてから入るわ。あと神楽はお妙んとこ泊まるってよ」

名前は夕飯作る前で良かったと言いながら俺の前にコップを二つ並べた。一つは麦茶で一つはイチゴ牛乳。仕事終わりの体に甘いものを一気に流し込みたいところだが、乾いた喉には麦茶が一番だ。名前のこういうさり気ない気遣いがたまらなく嬉しい。本当に出来た嫁だ。

「私夕飯の支度してきますね」

「サンキューな」

麦茶を一気飲みしたあと、イチゴ牛乳片手にテレビを眺めていると何の予告もなくホラー番組が始まった。おいマジか、ちょっと見ちゃったじゃねェかふざけんな。

俺は名前のあとを追いかけた。台所に着いてすぐ後ろから抱きつく。名前はほうれん草ともやしの入ったボウルに視線をやったまま、どうかしましたか?と可笑しそうに言う。ちょっとお嬢さん、胡麻和えよりもこっち見て。

「名前、一緒に風呂入ろう」

「怖いものでも見たんですか?」

「俺悪くねェもん、あんな急にさ、構える暇も無かったわ全く」

「夕飯少し遅くなってもいいなら」

「そんなもんどうでもいいから早く」

「はいはい」

聞き分けのない子供のような要求にも笑顔で応えてくれる名前は聖母のようだ。

名前の裸を見ることにも、自分の裸を見せることにも抵抗を感じなくなった俺だが、名前と一緒に風呂に入るのは事故以来初めてのことだった。明るい場所で濡れた肌を見れば欲が湧いてくるのは必然というもので、名前に触れたくて触れたくて仕方なくなってしまった。お互い体を洗い、決して広くはない浴槽に身を沈める。密着する名前の肌からは、同じものを使っているはずなのに良い匂いがして、余計に欲を駆り立てた。

「名前」

「なんですか?」

「すっげーやりたいんだけど」

「ふふ、随分してないですもんね」

「そうなの?」

「妊娠がわかってからは全然。前は少なくても二日に一度してました」

「ヘェ…頑張るね、俺」

そんなにマメだったのか俺は。
今まで名前に抜いてもらったことはあれど、本番を経験したことはない。名前曰く、ちゃんと避妊具を着けて清潔にしていれば問題ないらしいのだが、なんとなく恐ろしくて。でも今日は恐ろしさよりも欲の方が上回ってどうしようもない。

「いい?」

「もちろん」

名前の返事を聞いてすぐ俺は彼女に口付けた。何度重ねても足りないくらいに名前とのキスは心地いい。記憶を失う前の俺が手離せなかったのも頷ける。当時の俺は名前をどんな風に抱いていたんだろう。どこで、何度、この綺麗な体に跡をつけて、何度繋がったんだろう。
抱いていたのは自分なのに、まるで大切な名前を別の男にでも抱かれていたような気分だ。

「銀さん…のぼせそう、」

「悪ィ、上がるか」

名前を横抱きにして風呂を出た。そのまま濡れた体をバスタオルで包んで寝室へ。押入れから適当に引っ張り出した布団は雪崩を起こしたようにグチャグチャだが今はそんなこと気にしていられない。名前の体が痛くならないように必要な分だけを整え、そっと押し倒した。俺は今、初めてこの身体を抱こうとしている。真っ白で、誰にも汚されていないような綺麗な身体を俺が今から貫くのかと考えると、たまらなく興奮した。

「名前…愛してる」

「私もよ、銀さん」

思い出せないままでごめん、こんなに愛しいのに悲しい思いをさせてごめん。
でも記憶なんてなくても、俺はお前が好きで好きでたまらない。誰かをこんなに愛しく思うなんて想像もしていなかった。

初めて繋がり、名前の中で果てたとき、俺はこの世にこんな幸せがあるのかと思った。自分の下で呼吸を荒げる名前が愛しい。守りたい。それだけが頭の中に渦巻いていた。


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