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「名前ー」
「あー山崎ー」
「おいしい饅頭あるんだけど食べる?」
「食べる!」
仕事もせずに縁側にいると山崎から声をかけられた。隊服を着てないから今日は非番なんだろう。
「今日非番?」
「うん。名前は非番じゃないくせにこんなところで何してんの?」
「物思いにふけってました」
「はは、また副長に邪魔って言われたんだ」
「またって何」
「名前も懲りないねェ」
「うっせ」
山崎の言うとおり、私は副長に邪魔者扱いされた為ここにいる。何でも今日までに仕上げないといけない書類があるらしい。私はそんなのお構いなしに副長に愛を叫んでいたら…締め出された。
「名前はなんでそんなに副長のことが好きなわけ?」
「山崎は嫌い?」
「嫌いじゃないよ。上司としてすごく尊敬はしてるね。…まぁ八つ当たりはひどいけど」
「ふーん」
「で、何でそんなに副長が好きなの?」
「これ誰にも言ったこと無いのかな」
「ん?」
「5年位前にさ、攘夷浪士の連続放火事件があったの覚えてる?」
「あー…そんなこともあったね」
「私の家も放火されたんだよね」
「え?」
「その時にさ…」
父も母もその放火事件で亡くした私は燃え盛る自分の家を見て呆然としていた。そしたら副長に声をかけられて…
「大丈夫か」
「……」
「親御さんは」
「…死んじゃった」
「…長い人生だ、生きてりゃ辛いこともあるだろうな。だが、生きてりゃその分良いこともあるさ。死んじまったら何一つ味わえねェんだ。命があっただけ有難く思え。死んじまった親御さんのためにも目一杯生きろ、いいな?」
「…うん」
ポン、と頭に手を乗せて微笑んでくれた副長のおかげで私は大分救われた。その後、副長の存在を知って勉強して警察に入って…
「と、そういう経緯であります」
「名前ってあの事件の生き残りだったんだね」
「うん、まぁ」
「辛くない?」
「ここに居ればみんな居るから辛くないよ。何より副長がいるし!…副長は覚えてないだろうけど」
「はは、そうだね」
あぁー‥なんか昔のこと思い出したら燃えてきた。いや、萌えて来た。副長カッコ良かったなチクショー!
「やっぱ好き!超好き!」
「へぇ」
「私の愛はどこへ向かえば良いのか!やっぱり副長に受け取ってもらわねば!」
「そうだね」
「ってわけで行ってきます!」
「気をつけて」
バタバタバタ――…
「なんで閉め出されたのかもう忘れちゃったのかな。バカだなあの子」
「副長ー!」
「なんだ」
「私やっぱり副長のこと愛してます!」
「…そうかい」
「副長が私の愛を受け入れてくれた!いやん!死んでしまうくらい嬉しい!嬉しすぎて死んでしまいそう!」
「頼むから死んでくれ」
「願うは副長の上で腹上死!」
「死ねェェェ!!!!」
「ぎゃ!」
愛されるよりも愛したいお年頃です。