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私が風邪から復活した日、屯所ではなぜか宴会が開かれていた。局長にその理由を尋ねてみると「名前の風邪が治ったお祝いだ!」と言われた。いや無理があるだろうソレ。ここの人たちは酒を飲む口実が出来るなら何だって良いみたいです。
「名前、こっち来て俺に酌しろィ…ヒック」
未成年な筈なのに鬼嫁の瓶を大事そうに抱えて真っ赤な顔をした沖田隊長に呼ばれました。
「珍しいですね」
「男に酌されるよりも一応性別が女のあんたに酌してもらった方がマシだろィ?」
「一応っつった?今一応っつったよねあんた」
「ほら、早く」
「程ほどにしとかないと後で副長に怒られますよ」
「俺と一緒にいんのに他の野郎の名前なんか出してんじゃねェ」
「はいはい」
「罰としてお前も飲め」
「え」
「俺が酌した酒が飲めねェってか?」
「喜んで飲ませていただきます」
沖田隊長にもツンデレステータスというものが…って違う違う。全く珍しいこともあるもんだ。これが副長に言われたのなら次の日からご飯一週間食べないで良いくらいに嬉しいのに。って沖田隊長のはただのパワハラだ。
「…おかわり」
「なんだイケる口じゃねェか!ほら飲め」
「あざーす!…ヒック」
普段お酒を嗜むことを趣味としない私は鬼嫁がかなりレベルの高いお酒であることなんか知らずに飲み続けた。
遠くの方で「名前ーお前も野球拳やるぞー!」って聞こえてきたので「任せろー!」とそっちの方へ向かった。
「どっからでもかかってきやがれー!」呂律の回りにくくなった口で隊士にそう伝えると後ろからものすごい勢いで頭をはたかれて失神しそうになった。
「…いたい」
「何やってんだお前」
「あれ?幻覚?愛しの副長が見えるー」
「幻覚じゃねェし」
「ふくちょ」
「何だよ。ってか野球拳なんかしてんじゃねェよ。お前その着物一枚しか着てないんだからすぐ負けるだろうが」
「あ、そうか。風呂上りだから隊服じゃないんだーえへへ」
「相当酔っただろ」
「隊長が飲ますからー」
「チッ…総悟め」
「ふくちょも飲む?」
「お前は酔いを醒ませ」
「えー」
「早くしろ」
「一緒に行く?」
「あァ…だから早くしろ」
「土方さーん酔って何も分かって無い女を抱くなんてそりゃいけねェ」
「お前が酔わせたんだろうが」
「酔ったら名前も中々可愛いもんですぜィ?俺のことスキとか言っちゃって」
「なっ」
「あぁ見えて人気のある奴だからねィ。まぁ土方さんも気をつけるこった」
「クソが」
「ね、ふくちょ?」
「なんだ」
「早く行こ?」
「…あァ」
千鳥足になっていたところを副長に支えられて縁側まで歩く。「よっこいしょ」と腰かけたら「ババくせェ」と叩かれた。
「お前な、あんまり人に好き好き言ってんじゃねェよ」
「えー?何で?」
「ここが男所帯だってこと忘れんな」
「安心してください!私が好きなのは副長だけなんでー」
「…」
「好きって言うのも副長だけ!」
「そうしてろ」
「んふふー」
…翌日目を覚ますとかなり頭が痛かった。でもあんな素敵なことがあったんだ、この頭痛はそれの代償と考えても安いものだろう。
「安心しろ。後半はお前のただの妄想だ」
「え?」
「お前は隊士たちと立派に野球拳やってたぞ」
「え?」
「全裸で近藤さんと並んでたな…結構お似合いだった」
「え?」
「(嘘だばーか)」
「…」
「…さぁーて仕事だ」
…お酒は今後一切飲まないと誓います。