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【馬鹿、逃がさねぇよ】


「ね、次地球に降りるのはいつ?」

「さァな。」

窓際に腰掛け、真っ暗な宇宙を眺めたまま、私の方なんて見向きもせずに紫煙をくゆらせながら晋助は答えた。江戸には大切な仲間がいる。宇宙に飛び出して仕事をしている仲間もいるし、この船の中にだって大切な仲間はたくさんいる。でもやっぱり私は陸が恋しい。

あの時の戦争が終われば、私は普通の女の子みたいに好きな人と幸せな時間を過ごすことができると信じていた。かわいい着物で着飾って、普通の恋人みたいに腕を組んで町を歩いて、お互いの好きなものを眺めてたのしいデートをする。そんな当たり前のことができると思っていた。しかし現実は甘くはない。今だってこうして好きな人の顔すら見ることが出来ない。彼がなにを考えているのかがわからない。どうして私まで宇宙に連れてきたのかわからない。今や世界的な大悪党となってしまった彼と、腕を組んで江戸の町を歩くなんてことは二度と叶わないのだろう。

「ねぇ、晋助」

「なんだ」

晋助は真っ暗な宇宙を眺めたまま。

「どうして私まで連れてきたの?」

「……」

「気まぐれ?暇つぶし?」

「さァな」

「私は晋助のことが好きだから、ここまで着いて来ちゃったけど…」

「……」

「さすがに顔すら見られないなんて、ツライよ」

今まで耐えてきたのに、どうしてがぼろぼろと涙がこぼれた。こぼれた涙は無機質な床に落ち、吸い込まれることなく水溜りを作っていく。こちらを見向きもしない晋助を目の当たりにするのがつらくて、私は背を向けた。

「次地球に降りる時が来たら、その時は私、この船を降りようと思うの」

「……」

「心配しないで、誰かに情報を漏らしたりなんかしないから。江戸に降りたら銀時を頼ろうと思うの。お金を払えばなんでもしてくれる万事屋なんてやってるんだって。優しい銀時らしいよね、いつでも人のこと助けてばっかり…。こんな私でも助けてくれるのかなぁ」

不意に、タバコのにおいに包まれた。いつの間にか私は晋助に抱きしめられていた。

「馬鹿、逃がさねェよ」

「!」

「銀時なんかに渡すかよ。お前だけは俺の手の届く範囲にいろ。」

「ズルイなあ、晋助は」

「俺ァなんとも思ってねェ女をわざわざ侍らせる趣味はねェ」

「ハッキリ言ってくれなきゃわからないこともあるよ」

「嘘つけ。わかってんだろ」

「わからないから、教えてよ」

体を反転させると、久方振りの愛しい人の顔。頬に触れると性急な口付けが降ってくる。舌を絡ませ、情熱的な口付けが。

「な、言わなくてもわかるだろ」

「…ズルイ人」

結局私はこの船という檻から逃れることは出来ないのだろう。


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