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【今すぐ抱きしめたい】


部活が休みになる月曜日と祝日が被ることがある。普段ハードな練習をこなす俺たちのために、オーバーワークになりすぎないようにと設けられた休日だ。青城に入ったばかりの頃は真面目に体を休めていたが、3年も経つと徐々に時間の使い方も上手くなるというもので…。今日はせっかくのなのだから適度に遊び、適度に休もうといつもの連中と話し合って決めた。

「せっかくの休みなのにあんたら元気だね…」

「ナマエ、お前たまには日に当たらないとダメな人間になるぞ」

いつもの連中、俺と岩ちゃんとマッキーとまっつんと、マネージャーのナマエ。俺らは海に来ていた。

「ああ、水着の美人が俺を呼んでいる」

「花巻ってどんなのがタイプなの?」

「俺はあの黒ビキニのお姉さんかな」

「及川はわかってねぇな。黒は狙いすぎだ。あの水色ビキニとかの方が…」

「えー、岩ちゃんは?」

「俺は興味ねぇな」

「ふーん。まっつんは?」

「俺?ナマエのが可愛いと思うけど」

「やだ〜松川上手〜」

一向にパーカーを脱ごうとしないナマエを横目に見てさりげなーくさりげなーく褒めるまっつんは本当に上手だと思う。ずるい。同い年なのに大人の余裕を感じる。なぜだ。

「うし、花巻あそこの小島まで競争するぞ」

「腕相撲では負けたけど泳ぐのは負けねぇ」

「松川、審判してくれ」

「えー、いいよ」

「俺は?」

「お前?砂の城でも作ってろ」

「ひどいよ岩ちゃん!」

結局三人においてけぼりをくらって、ナマエと共に三人の後ろ姿を見つめる羽目に。日陰で他愛ない話をしながら勝負の行方を見守るも、相変わらずあの二人の勝負は岩ちゃんに軍配があがるようだ。

「及川は泳がないの?」

「こんなところにナマエ一人でいたらナンパされちゃうでしょ。俺は男避け。みんなそのつもりだと思うよ」

「そんなことが心配なら私を誘わなくても良かったのに」

「ナマエがいなきゃつまんないじゃん。やだよ男四人で海なんて。暑苦しい」

平均よりもデカイ男四人で…と想像すると、間違いなく暑苦しい。

「ナマエ、そんなにあっちが気になるなら俺たちも一緒に泳ごうよ」

「え、いや、でも」

「ナマエって泳げなかったっけ?いや、昔スイミング通ってたじゃん」

「泳げないことはないんだけど…あのね、水着…今年新調したから恥ずかしくて」

「それはビキニですかお姉さん」

「だから恥ずかしいの」

ナマエの裸なんて見たことはないが、そこそこ胸はあるだろうし、足も長くて綺麗だから似合わないことはないと思うのだが。

「あっち行く前にちょっとだけ見てくれる?似合わないなら似合わないって言ってくれていいから」

ナマエがそう言って海に背を向けてパーカーの前を開けた。もうなんていうか理想を具現化したような光景が目に入ってきて、気合を入れていなかったらアレが素直に立ち上がりそうだ。我慢だ、我慢だ俺。

「あ、あのナマエさん、今すぐ抱きしめたいんですけどダメですか」

「見るに堪えないから抱きしめて視界から消してしまいたいって?そっか、ごめんね」

「どんな被害妄想?!」

「だって」

「似合いすぎててエロくてたまんないからあいつらに見せたくないって言ってんの!」

顔を赤くしながらナマエのパーカーの前を合わせると、ナマエも同じような顔を赤くした。そんなとき悪魔の囁きが聞こえた、

「誰の水着が、エロくてたまんないって?」

岩ちゃんとの勝負を終えて戻ってきたマッキー。さすが青城バレー部イチやるときはやる男、花巻貴大…。俺にはニヤニヤと笑うこの男を止める術は見当たらなかった。

ーーごめんナマエ、魔の手から君を守れそうにない俺を許してほしい。

ナマエの肩をドヤ顔で抱くマッキーを見つめ、俺の青春には敵が多いことを痛感した。


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