「どけ。」
『ひゃ…っ!!』
ビクッと背筋を伸ばす少女は、自身の琥珀色の髪の間から、ちらっと彼の様子をうかがう。特にいつもと変わりはないが、そのむっとしたような表情に小さく『す、すみません…。』と答えた。
辺りに散らばった資料。
ハルは慌ててかき集めると、通れる程の道を開ける。
しかし、彼は動くことなくその場に立っており、ハルはゆっくりと顔を上げた。
「何やってんだ。」
『こっ…こけました!』
「見ればわかる。」
『すみませんっ!』
淡々とした口調に、ハルの身体が縮こまる。火がついたように火照った頬を両手で抑えながら、ハルは何度も首を左右に大きく振った。
「…。」
『えっ!?』
何も言わず資料を拾い始める相手に、桃色の瞳を大きく揺らす。
「早く拾っちまえ。」
『は、はい!!』
思わず言われた通りに動く身体。突如訪れた状況に、少女の心臓はバクバクと高鳴っていた。
おかげであっという間に集まった資料に、ハルはもう一度深々と頭を下げる。
「どこに持っていく…。」
『えっ…と、コムイさんに頼まれて…。』
「チッ。」
大きな舌打ちの後、それらの資料を手に立ち上がると、何も言わずその場を離れようとする。
『ゆ、ユウ?』
名前を呼ばれ立ち止まると、黒髪を揺らしゆっくり振り返った。
「早く来い、ハル。」
『……っ!!!は、はい!!』
決して口にはしないものの、その優しさにハルの頬は緩んだ。後ろから聞こえるパタパタと小走りの足音に、同じく小さく微笑む神田。
名前を呼ばれて弾んだ鼓動は、果たしてどちらのものだったのか。
好きだって気づいて
(秘めたる想い)
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