「ウゼェ。」
短く舌打ちをする。それが耳の良い少女に聴こえていないはずもなく。それでも少女は嬉しそうにしていた。
彼女の兄や悟空たちはおらず、皆で買い物に出かけている。残ったのは二人だけ。
『さーんぞー!お茶いれたげる!!』
「……。」
黙ったまま湯呑みを差し出すあたり、彼の優しさが見て取れる。
何とも覚束ない動作でお茶を入れるハル。彼女の住んでいた世界には、お茶を淹れることなどあったのか。そんなことも三蔵は知らない。
目の前にいる少女のことは、変わった術を使うこと以外は何も知らないのだ。
『はい!』
「………。」
やはり何も言わずにそれを受け取る三蔵。それでも嬉しそうな少女に、思わず「…何がおかしい。」と聞いてしまう。
『さんぞーはあたしたちをホゴってのしてくれるんでしょ?』
「……そうなるな。」
『だから良いヤツでしょ!』
何とも単純な思考に、思わず眉を寄せてしまう。
『あたしたちが双子って知っても殺さないし!』
「………この世界じゃ、そんなことどーでもいいんだよ。」
その言葉に笑うハルの表情が少し曇った。鋭くそれにも気がついてしまう自分に、三蔵は再び舌打ちをした。
その意を汲み取り笑うハルは、テーブルに両腕を組みその上に伏せったまま三蔵を見やる。臙脂の瞳は大きく丸く、じっと彼を見上げた。
『あたし、三蔵のこと好きになれると思う!』
「……は?」
『てかもう好きだね、うん。』
淡々とした告白に三蔵はぎょっとし、何も言えず少女を見下ろす。
『もうね、なんか三蔵はあたしたちを絶対裏切らないだろーなァって思えるの。』
「随分安易に人を信じるんだな…。」
『そーだねぇ。』
くくっと笑う少女は嬉しそうに目を伏せる。
『けど、三蔵になら裏切られてもいいって思っちゃうんだよなぁー。』
「………。」
『それくらい好きだよ。あたしもリクも。』
あまりにも純粋で真っ直ぐな言葉に、三蔵は黙って視線をそらす。ハルは依然として瞼を下ろしており、視線が交わることはないにもかかわらず。
「………ウゼェ。」
ぽつりと漏らした言葉に、ハルはくくっと声を上げて笑った。
舌打ちなんて逆効果
(相手は純真無垢)
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