「おめでとう!!ハル!!」
もふっとハルへと飛びつくチョッパーに、難なく受け止める少女と、何事かと目を丸くするナミ。
「何ー?何かあったの?」
読書をしていたロビンも本から目を移し、彼女たちへと意識をむけた。
「今日はハルの誕生日だぞ!」
「そーなの!?あんた、早く言いなさいよ!」
「まあ、お祝いしなくちゃ。」
『待って!いいよ、べつに。』
他の仲間へ伝えようと立ち上がるナミに、ハルは苦笑しながら止める。少女の腕の中には変わらずチョッパーがにこにこ笑っていた。
『わざわざいい。みんなに祝ってもらっちゃったらお返し困っちゃう。第一みんなの祝ってもないのに。』
「そんなことどーでもいいのよ?」
「せっかくの誕生日ですもの、祝わせて?」
『………、…なら。』
戸惑いながらも視線を下げるハルに、ナミとロビンは首をかしげる。ゆっくりとチョッパーを下へおろすと、控えめに両手を広げ二人を見た。
『ぎゅってして?』
「……っ!!vv」
その瞬間、ハルを抱きしめるナミ。
「可愛いvvこれでいいなら毎日だってしてあげるわ!!」
『特別な日だけでいいの。』
空色の瞳は嬉しげに細められ、ナミの腕の中へと落ちていた。
『ナミ……ちょっと苦しい。』
「次はわたしね。」
御構い無しに抱きしめるナミから、ハルを救出すると、ロビンは優しく少女を抱きしめる。
「おめでとう、ハル。」
『…うん。』
ロビンの腕から離れたハルは、それはそれは嬉しそうに微笑んでおり、ナミとロビンもその表情だけで嬉しく感じた。
「何やってんだ?」
「ルフィ!今日はハルの誕生日なんだぞ!」
「何だってぇえ!!?ハルちゃんの!?」
聞きつけたコックは興奮気味にテラスへやってくる。何も準備をしていないと頭を抱え呻くサンジへ、チョッパーは何の悪気もなく言い放った。
「ハルはぎゅってしてもらいたいんだってよ!」
「なぁあーーーーっ!!?お、おれがハルちゃんを…っ、だ、抱きしめ…!?」
『サンジもしてくれるのか?』
こちらも悪気なく両手を広げるものだから、サンジは完全にノックアウト。そのままハルの腕へと倒れ込んでしまう。
何とか彼の体を支えるも、鼻からえげつない量の血を垂れ流すサンジに、チョッパーのドクターストップがかかった。
「死んでんじゃねえか?」
「いつものことだよ。」
騒ぎを聞きつけドン引きするウソップにチョッパーは平然と答える。
「ウソップも祝っときなさいよ。」
「なんだ?」
「ハルの誕生日よ。」
二人に教えられて初めて知ったウソップは、ポッケをごそごそといじりまわし何やら取り出した。
「これやるよ!」
出てきたのは小さな飴玉。ハルの瞳の色と同じソーダ味の丸い飴玉だった。小さくお礼を呟きながら受け取るハルをみて、チョッパーはむっとしながらウソップへ伝える。
「ハルはぎゅってしてほしいんだぞ!ウソップ!」
「はぁ?ぎゅって…おまえなぁ。おれがしたらなんか……、なんかだめだろうが。」
ウソップは呆れたように頭をかく。ちらっとハルを見ると、飴玉を口に含めころころと転がしながら、黙って両腕を広げてみせる。
『何がだめなんだ?』
何の意識もしていない相手に対し、自分だけ考えすぎているのではないかと恥ずかしくなったウソップ。
「………。……、わかったよ!!」
少女の丸い瞳に根負けしたウソップは、細い少女の背へ手を回し、ぽんぽんっと軽く叩いた。「これでいいか?」とぶっきらぼうに聞く彼に、ハルはまた嬉しそうに笑った。
「あいつもいい加減起こしてきたらいいわ。」
「悪ぃな、寝てねぇよ。」
「あら、珍しい。」
ナミの提案へ返答したのは先ほどまで寝ていたはずのゾロだった。相変わらず大きなあくびをしながら、みんなの元へ歩み寄る。
どこまでこの状況を理解しているのだろうか。
「おい、ゾロ。今日はハルの誕生日なんだってよ!ハルちゃんはハグしてほしいらしいぜ!」
ウソップがそう伝えると、彼は足元へ倒れこむサンジへ視線をやる。あまりの興奮に意識を飛ばしてしまっている彼をみて、ゾロは小さく舌打ちをすると、何も言わずにハルの前に立った。
そしてそのまま、ハルの頭を引き寄せ抱きしめる。
『まさかゾロがしてくれるとは…。』
「うるせぇ、黙れ。」
なんて冷たくあしらわれても、ハルの表情が曇ることはない。
「うははっ!!今日は良い日だなっ!!」
仲間の様子を見守っていた船長ルフィは、ひとり声をあげて笑うと、腕を伸ばしてその場の仲間全員を巻き込み抱きしめた。
「誕生日おめでとォ!!!ハル!!」
『うん、ありがとうみんな!』
「今日は宴だァ!!!」
『結局?』
ぎゅっと苦しげに身を寄せ合う一味だが、主役であるハルの表情は明るく、終始嬉しそうな笑顔だった。
それだけで嬉しいから
(毎年そうだったから)
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