『ひー君!』
「…なつめ!学校帰り?」
『うん、道場行こうと思って。』
「こんな日に稽古!?」
こんなに寒い冬でも温かく微笑むなつめに僕は驚いた。だって今日はクリスマス。なつめだって…。いや、男はいてほしくないけど…やっぱり…。
『ひー君?何一人で百面相してんの?』
けらけらと笑うなつめは俺の気持ちに全く気づかない。いや、きっと気づいても変わらないだろう。だって俺は小学生でなつめは高校生。こんな俺なんて見向きもしないだろう。
「…頑張りなよ。」
それだけ言って俺は自身の家へと足を向けた。
『ひー君。』
肩が温かい。この温もりはなつめだ。少し顔をずらすと視界に白いなつめの手が見えた。
「どうしたの?」
『うん…寒いから今日は稽古やめとこっかなって。』
「…そっか。」
なんでいきなりやめたの?
だからってなんで俺を呼び止めたの?
頭の中では疑問が飛び交うのに、珍しく口が開かない。
どうすればいいのか迷ってうつむいていると、先に声をかけられた。
『寒いから、久しぶりにひー君の家行っていい?』
「………は?」
またびっくりした。だって寒いからって…。なら家に帰って暖まればいいのに。俺んちじゃなくたって。
そんなことばっかり考える俺の目の前に鼻の赤くなったなつめの顔が近づいた。
『ダメかな?』
にっと無邪気に笑うなつめ。気づいてたんだ。俺が離れたくなかったってことに。そんな大人の余裕がムカつく。
……けど。
「いいけど、よ…汚さないでよねっ!」
『はーい!』
「何その間延びした返事。止めなよ。」
『はい!』
「……はぁ。」
ため息なんてついてみたけど、こんな日をなつめと過ごせるだけで嬉しくて、緩む口許を見られないように早足で歩いた。
ため息まで白い
(嬉しくても出るんだね)
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