『今日寒いねぇ…。』
「雪が降るって言ってたー!」
『本当?初雪じゃんか!』
小さな子供みたいにはしゃぐなつめを見て、僕は自然と笑みがこぼれた。だって本当に子供みたいだったんだもん。
『初雪かー!積もるのかな?』
「積もったら一緒に雪だるま作ろうね!」
『うん!』
僕の足は自然と早くなる。早くなつめとの分かれ道まで行かないと、って焦ってるんだと自分で分かってる。
『紅葉?何か急ぎの用事でもあるの?』
きょとんとした表情で問うなつめにそうだよ、って返すと納得して僕の歩みに合わせてくれる。
ごめんね。僕は今嘘をついた。
なつめは疑うことなくまた次の話を始めた。僕は黙って薄い雪雲に覆われた空を見上げる。
まだ降らないでね。
なんでそんなことを祈るのかって?
どこかで聞いた噂があるんだ。だから初雪はなつめと見たくないの。
いつもはあっという間なのに、今日はようやくたどり着いた分かれ道。幸いまだ雪は降りてこない。
「じゃあまたね、なつめ!」
『うん…また。』
なつめが歩き出すのを見送って僕はほっと息をつく。そしてそっと家に向かって歩き出すんだ。
「あ…」
空から白い白い雪が舞い降りてきた。僕の隣にもうなつめはいない。間に合ったんだ。
そしてまた僕は空に向かって祈るんだ。
雪を積もらせてください、って。
きっとなつめが喜ぶから。
本当はなつめと一緒に見たかった。綺麗な初雪。けどね、友達が言ってたの。
「好きな人とは初雪見ちゃダメなんだって。」
「どうして?」
「想いが通じなくなるんだってさ。」
なんて聞いたら一緒に見れないでしょ?だってなつめと想いが通じなくなったら困るもん。
本当のことを教えたら納得してくれただろうけど、やっぱり内緒なの!
ごめんね、なつめ。
初雪が降るまでに
(照れちゃうから)
私の周囲である噂です。
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