『わ、私の苦手なもの…ですか?』


食堂でご飯を食べるハルにそう問うのは、アレンとラビ、そしてリナリーだ。
神田は黙って蕎麦を食べている。

興味深々な彼らに圧倒されながらも、少しうつむきがちに考えるハルは何とも素直だ。










〜今から30分前〜


「そういえば、ハルってば初めてクロウリーを見たとき倒れたみたいよ。」

「ハルらしいっちゃらしいさー。」

「苦手そうですもんね、ホラーとか…」


そう話すのは教団で数少ない10代であるアレンとラビとリナリー。



「他にも虫とか嫌いそうさねー」

「あら、でもあの子は植物学が得意でしょ?そしたら虫って結構身近なものじゃないかしら?」


リナリーの言葉に確かに、と頷く二人。



「あ、雷とか苦手そうじゃないですか?大きな音とあの光!」

「そうねぇ…。雷が鳴ってるときは、ベッドの上で小さく丸まってそうだわ。」

クスッと微笑むリナリーに、ラビが苦笑する。
そんな中、新たな人物が談話室へと入ってきた。



「……ちっ…」

メンバーを見て早々と出て行こうとする彼をラビが呼び止める。


「ちょっ…待つさ、ユウ〜。」

「下の名前で呼ぶな、馬鹿兎。」

何とか足を止めた神田にアレンが尋ねた。



「神田はハルの苦手なものって何だと思いますか?」

「は?」

「今その話をしてたのよ。神田は何だと思う?」


リナリーにまで問われ、頭を抱える。この部屋に入ってしまったがために、こんなことになってしまった。



「ま、そこまでハルと仲良くないユウにはわから…」

「計算…」

「「……え?」」


ラビの挑発に言葉を発してまった神田。そしてその答えに彼らは目をまるくする。



「計算だっつってんだろ…」

「ユウってば馬鹿なんか?」

「ハルは科学班ですよ?計算が苦手なわけないじゃないですかー」


けらけらと笑う二人にリナリーは閃いたように笑みを浮かべた。



「もうこの際だからハルに聞きに行きましょうよ!ちょうど休憩してるみたいだし!」















〜そして、今に至る〜


『苦手なこと…』



食べる手を止めてまで懸命に考えるハルの姿は何とも微笑ましい。


『私の苦手なことは…』



遠慮がちに開かれる口元。彼らは息を飲み次の言葉を待つ。





『計算…ですかね?』



「「「え…?」」

思いも寄らない答えに空いた口がふさがらない三人と、一人どや顔の神田。


「な、なんでさ!」

「ハルは科学班でよく計算してるじゃないですか!」

「よりにもよって計算だなんて…」


ぎゃあぎゃあ騒ぐ三人を置いて、蕎麦を食べ終えた神田は勝ち誇った表情でその場を後にする。



『た、ただ出来るってだけなんですよぉ…。実は計算…とっても苦手なんです……。』


「…そうなんか。」

「なんで神田わかったんでしょう…?」



肩を落とすラビとアレン。情けなさそうに眉を下げるハル。




「何だかんだで一番ハルのこと見てるんじゃない…神田ったら。」


ただひとりにやりと笑うのは、いつも無愛想な幼なじみの弱点を知ったばかりのリナリーだった。












知ってるに決まってる
(見てないと危なっかしいから)












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