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「担任?小早川?」
剛がヒョイと里桜の背後から、携帯のディスプレイを見る。
ディスプレイには、担任の名前しか書かれていないのに、まさしく当人を言い当てられてドキリとお化け屋敷のお化けにでもあったように心臓が跳ねた。
恥ずかしい。
すぐに里桜は、携帯をポッケに入れ、
「ちょっと寄るとこ有るから、鈴、剛と教室行ってて」
と一言告げる。
だらだら喋っているうちに校門に入ったため、教室まではあと少しだ。
「おにいちゃんは?」
「雑用頼まれてた」
云って、里桜は鞄を小脇に駆け出した。
目指すは、数学準備室だ。
未だにピロピロとなり続ける携帯電話。
どうやら、里桜が出るまで切ってくれないらしい。
里桜は、校舎の隅までいくと、辺りに誰もいないのを確認し、携帯の通話ボタンを押した。
「もしもし…」
「おせぇ、何コールかけたと思ってやがる」
電話の主は、低い声で不機嫌そうにそう零す。
「出なかったらきればいいじゃないですか!」
「ああ?んだと?こら」
傲慢なその、態度。
その人、小早川疾風(こばやかわはやて)
この学校の数学教師であり、里桜のクラスの担任であった。
そして、
「ご主人様の命令にたてつくとはいい度胸だな、おい」
里桜にとっての…、ご主人様、でもある。
「おい、里桜、」
「…なに?」
「今どこだ…?家でたか?」
「校舎、だよ。もう学校…」
「んじゃ、早くきやがれ。逃げんじゃねーぞ」
「ちょ…」
ちょっと待て、そう里桜が言い終わらぬうちに、疾風は電話を切ってしまった。
里桜は苦々しい顔で、携帯をポッケに入れる。
そして、指定された場所へと足を向けた。
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