鬼畜狼と蜂蜜ハニー里桜編 | ナノ


  衝撃はハバネロ級。


☆衝撃はハバネロ級。




 学生服をきていた隼人に恋心を自覚して、早十年。
季節はめぐり鈴と里桜もあの時の隼人と同じ高校生になっていた。

 目覚ましの音が鳴る前に里桜はベッドから起きあがり、身体を伸ばす。
めざましがなる前に起きるのは、里桜の癖になっていた。

里桜は鈴を起こさぬよう、静かにベッドを降り部屋にある鏡の前にたった。

鏡の前には、愛用している里桜の眼鏡がある。
里桜はそれをセットし、軽く櫛で髪を整える。


「変な顔…」

鈴は成長しても子供の頃の美貌を損なうことなく、可愛らしい容姿へと成長した。
対して里桜は双子な筈なのに、あまり似ていない。
可愛らしさはなく、生真面目さばかりが際立つ顔。

眼鏡のせい…だけではないだろう。
纏う空気・性格含めて、鈴と里桜は違う。

愛らしい鈴と、生真面目な里桜。
甘える事ができ、素直に人と接することが出来る鈴と、屁理屈で利己的な里桜。

今年に入り、鈴に告白しようとする輩が増えた。
割合は男からの方が多いだろうか。
告白の多さは、正直目に余るものがある。
共学なのに、本気で鈴の身が危ないと思うことも多々あった。


 里桜は鈴の友達である高橋剛(たかはしつよし)と協力し、鈴を付け狙う男達を撃退していた。
高橋も鈴を思う一人であるが、唯一の例外として鈴の隣にいることを許している。

高橋はやくざの息子であるが、鈴には大変ヘタレな性分で、里桜同様、鈴至上主義だった。
鈴に長年告白もできずにいる高橋は、無体を働けるほどの人間ではなかった。

 ヤクザの息子ということで、最初は里桜も、高橋を毛嫌いしていた。
高橋という人となりを知らず、ヤクザの息子というだけで危険だと判断し、鈴を近づけなかったのである。
しかし、これには鈴も反対し里桜の言うことも聞かなかった。

「剛君は剛君だよ?なんでにいちゃんまで、そんなこと言うの?そんな風に人をイメージで決めつけちゃ駄目だよ」

鈴は人となりをよくみている。
だから、本当に嫌な人間であれば里桜の力を借りずとも自分でなんとかできる、と。
事実、高橋は少しお馬鹿さんであるが、気がいい人間でガリ勉と虐められていた里桜に対しても周りから守ってくれた。

そんなこともあり、里桜は高橋を鈴の友達、と認めているのだ。
もちろん、「鈴に手を出すな、」と釘を指すのも忘れていない。

高橋もそれをわきまえているのが、限度を超えた接触はしていなかった。
しかし、高校生に入ってから少しだけ際どいスキンシップが多くもなっていた。
鈴が誰かに取られないか気が気でないらしい。

 かわいい鈴にいつ魔の手が忍び寄るとも限らない。
そう考えた里桜は鈴を守りたい一心で、生徒会長となった。
堅物で笑わない生真面目な生徒会長。
それが、学園での里桜の評価である。



ピピピピ。
里桜が学校の準備をし終えたところで、かけていた目覚ましがなりひびいた。
鈴は布団の中でもぞもぞ、と身体を動かしながら、目覚ましのスイッチをオフにする。


「鈴、先に階下(した)へ行くからな?起きろよ?」
「う〜ん」


里桜が一言そういうと鈴は眠たげに目蓋を擦った。
この後の鈴の行動はわかっている。
里桜は、その光景を見たくなくて、足早に部屋を後にした。


この後。
鈴は携帯に付けた、薄汚れたあの人からウサギのマスコットにキスをする。
隼人から貰ったあのうさぎのキーホルダー。
おはようといって、まるで本人に送るかのように、そっとキスを送るのだ。
優しい幸せになるような、キスを。


その風景を見るたびに、里桜の心はささだつ。
弟を奪われた気持ちになるのか…それとも、自分も隼人に恋をしているからか…。

恋する二人を見ていられない。
鈴が一番大切なのに、そのマスコットを見るたびに里桜はささぐれた気持ちになってしまう。


隼人に出会って、もう10年以上が過ぎようとしている。
小さい頃は自分の気持ちがわからなかったが、マスコットを大事にし、隼人さん、と声をかけている鈴を見て次第に自分の感情をはっきりと理解することができた。

自分は、あの人が好きなんだ、と。

でも、自分は男だし、隼人は里桜たちよりだいぶ年上だ。
この恋は、叶いっこない。

そう理解しているのに、里桜は隼人を想うことを辞められなかった。



 天音家の朝は、味噌汁の匂いから始まる。
母親が和食好きだからだ。

「おはよう鈴、顔洗って席に着いて」
「おはよう母ちゃん」

里桜に数分遅れて鈴がリビングへとやってくる。
高校生なのだから、もっと落ち着けばいいものの、鈴は落ち着きからは無縁だった。
でも、それが鈴らしい。
里桜などは落ち着きすぎていて、枯れている老人かと苦言を言われるくらいだ。


「にいちゃん、ウインナー頂戴ねっ!」

鈴は洗面所へ慌ただしく駆けて行く。
やれやれ、と思いながらも、文句も言わず条件反射で自身の皿の上のウィンナーを半分もうつしてあげる里桜。


「里桜は優しいわね」

そんな双子の兄である里桜を見て、母は苦笑し里桜にヨーグルトを手渡した。

「ありがと」
「いえいえ」

里桜と鈴は二卵生の双子で、そっくりな顔はしていない。
だが、顔のパーツだけを見てみると似ている部分も多く、2人が血が繋がった兄弟だとわかる人にはわかるようだ。
鈴も里桜も母親と目鼻だちはよく似ている。
里桜などは、死んでしまった父親の面影も少しあった。

薫は、「鈴はちょっとぼんやりしたところ、ママに似ているけど、里桜のしっかりしたところはパパ似ね」とよく話していた。

鈴は母似で、里桜は父似なのだろう。
今でも二人を見て、薫は死んでしまった父親を思い出している時がある。
父の遺影の前で泣いている姿も見た。



父親が他界し、薫は女手ひとつで双子をもう何年も育てあげている。

母の苦労は、鈴も里桜も見ていてよくわかっていた。
薫は個人病院『小早川医院』に勤める看護婦なのだが、それこそ、朝から夜まで働く。家に帰れば双子の世話や家事もして父親変わりにときには双子を叱った。

幼い頃、ママがいないと嫌とぐずる鈴をなだめながら、里桜も滅多に家にいない母親を恨めしく思ったものだ。だが、薫の苦労がわかる年ともなると、その気持ちはただただ感謝しかなかった。


「にいちゃんありがとう〜」

戻ってきた鈴は席に着くといただきますと手を合わせて、ウインナーを頬張る。
頬にいっぱい頬張る鈴の姿はさながら、ハムスターのようだ。


「あのね、あなた達に大事な話が有るの」

薫は双子の向かい側に腰を降ろすと、改まった顔で双子を見詰めた。
なんだろう?と双子が疑問に思っていると…

「私妊娠したの」

薫はそう一言口にした。

妊娠。

妊娠。

その言葉の意味を理解するのに、里桜は数秒要した

「「…………」」

爆弾発言に里桜は固まり、鈴はウインナーを吹き出した。
まるで、漫画のように勢いよく。



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