・
「
「鈴っ!」
隼人が里桜の肩を押し退ける。
里桜がハッとして、隼人の背後を覗くとそこには鈴が驚愕に目を見開いていた。
(やっちゃった…、)
ずっと、秘密にしていたのに…。
秘密にしていなきゃ、駄目だったのに…。
なのに…
「な…何」
震える鈴の声。
(もう…駄目だ…。
このまま、隠すのも、いいお兄ちゃんでいるのも…)
里桜は泣き腫らした眼で鈴を見詰めた。
「にいちゃ…?」
「俺は隼人さんが好きだ」
「!?」
里桜の告白に鈴は後退さる。
やはり鈴は里桜の気持ちには気づいていなかったようだ。
パニックになった鈴は、そのまま隼人と里桜の横を勢いよく通り過ぎ玄関へ向かう。
「鈴っ」
隼人は慌てて鈴に手を伸ばすが、鈴はその手をすり抜ける。
「鈴!!」
玄関から飛び出した鈴を追いかけ、里桜を放置してかけだしていく隼人。
逃げる鈴に追いかける隼人。
キスして告白もしたのに、隼人のその瞳に里桜が映ることはない。
(わかって…た…。わかって、いたのに…)
自分には、鈴を必死に追う隼人のような存在なんかいない。
「…っう…、」
好きだった。鈴のように可愛らしくはなれないけれど。
好きだったのだ。
だから、告白してしまった。自分の弟が好きな相手にも関わらず。
でも…、里桜の告白は、隼人にとっては邪魔なだけなもの。
隼人には、どんなことがあっても鈴しか映らないのだ。
どんなに思っても。
「…っ、ふ……、」
乾いていた涙が、またこみ上げてくる。
今まで、隼人を思って必死に隠していた気持ちが溢れ涙になったように、止まらない。
「隼人…さん…隼人さ…」
「里桜、」
いつの間に来たのか…。
泣き崩れ、床にしゃがみ込む里桜を、そっと疾風は抱きしめる。
「せんせぇ…、」
泣きじゃくる、里桜。
ボロボロ、と涙を零しているその姿は、普段クールで冷静と噂される生徒会長の姿はない。
ただ、一途に温めていた恋心に破れなく嘘偽りない里桜の姿しか、そこにはなかった。
「辛いよな…。好きな人が、他の誰かを好きってさ…」
優しく里桜の頭を撫でながら、言う疾風。
その優しい温もりに、ついつい里桜は瞳を閉じて、手のぬくもりを受ける。
「あんな…隼人のことなんか忘れちまえ。鈴しか見えない、馬鹿。お前がこんなに泣いているのにあいつほっといて鈴おいかけているんだろう…」
「…、だって、隼人さんは鈴が好きだから…」
「好きだから、でもな…。いくら好きだからって…」
「…いいんだ。これで、もう…、すっきりした、から…。キスもしちゃったし…」
「キス…ね…」
途端、疾風は苦虫を噛んだように顔を歪める。
「あの…ね…、俺二人の邪魔しないよ…。隼人さんの気持ち、わかったから。隼人さんは鈴が好きで、俺なんか見てくれないくらい鈴が好きってことわかったから…だから…」
「あああ、もう、そんな顔でそんな事言うんじゃねェ!」
ぎゅっと、己の胸元に里桜の顔を埋める。
「泣け…お前は少し、我慢しすぎだ…」
「せん…」
「ずっと好きだったんだろう?隼人だけを、ずっと。鈴と同じくらい好きだったんだろう…。言っちまえ。全部。俺の前くらい…、」
「うん…うん……っ、ああああ…」
疾風のシャツの胸元を握りながら、わんわんと泣く里桜。
疾風は何も言わずに、そんな里桜を抱きしめていた。
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