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「鈴は、あいつが大好きだからな。そして、あいつも…」
「俺…だって…」
「あ…?」
「俺だって、好きだ!ずっと、好きだったんだ!
ずっと…あのキーホルダーが欲しかった!
俺を見てくれない隼人さんが…欲しかった…!俺だって…、」
好き、だなんてずっと鈴にも隼人にも言わない。
この気持ちは…叶わないこの気持ちは墓場まで持っていく。
ずっと隼人を好きで居続ける筈だから。
だから、二人には言わない。言えない。
そう思っていたのに…
「俺だって隼人さんが好きなんだ!どうしてみんな鈴ばっかり…。
俺だって隼人さんが…好きなんだ」
「里桜!」
掴まれていた疾風の腕を払い、部屋から出て行った。
二人が寝たと聞かされて、気持ちがぐしゃぐしゃになっていた。
嫉妬?恨み?両想いになった二人へのやり場のない感情?
こんな醜い感情嫌なのに。
ボロボロと、涙が溢れ止まらない。
湧き出た感情はすぐに消えそうもない。
結局、そのまま疾風が住んでいた家から、自宅に帰った里桜は、玄関先にある男ものの靴を見て顔を顰めた。
昨日隼人が履いていた靴。
つまり、隼人が家にいる。
何故?
―鈴と寝たから…?
鈴を抱いたから、家まで送ったの?
「隼人…、さん…」
ふらふらとした足取りでリビングへと向かうと、ちょうど、廊下に出てきた隼人と鉢合わせた。
「あれ…里桜…?」
機嫌良さそうな隼人の姿。
里桜の姿を見つけると、にっこりとほほ笑んだ。
「隼人…さん…」
「ん…?なにかな…?」
里桜に合わせ、少ししゃがんでくれる隼人。
首筋にちらりと見えたキスマーク。
昨日、隼人は鈴を送った。ということは…そのキスマークをつけたのは…
(鈴…と…)
「どうしたんだい…里桜…つっ!」
隼人が何か言う前に、背伸びをして、その口を自分の唇で塞ぐ。
衝動的に…、その唇にキスがしたかった。
せめて、そう、最後くらい…。
一度でいいから、欲しかったのだ。
隼人が鈴を好きでもいいから。
一度くらいキスは、好きな人としたかった。
カタン、と隼人の後ろで、小さな音がした。
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