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「せんせいは…」
「あ…?な、なんだ…」
「鈴のこと、好きなんですか?」
掴まれた腕をそのままに、里桜は疾風を見上げた。
「あ…好きに決まっているだろ?何言ってんだ…?」
「そう…ですよね…、」
疾風の答えに、顔がくしゃり、と歪む。
(…何故だろう、先生≠ェ俺より鈴が好きなことなど知っていた筈なのに…。
たまに、優しくしてくれるから…。昨日みたいに、してくれるから…俺…)
疾風が言ったのはけして恋愛感情ではない。
単純に好き≠ゥ嫌い≠ゥで言っているのだ。しかし、勘違いをした里桜は言葉をそのまま受け止める。
(…、先生も隼人さんも、鈴が好きなんだ…)
「それでな…、俺は鈴が誰を好きかも知っているが、お前も誰が好きか知っているんだよ」
「…っ!」
「お前ら双子が互いに思い合っている奴も…な…。好きなんだろう?隼人のこと」
好きなんだろ、隼人のこと。
疾風の言葉に、里桜はぎゅっと唇をかみしめる。
好き。
好きだ。
ずっと見てきた。
隼人の視線が、鈴にしかいかないことを知っていたのに。
ずっと、ずっと…。
鈴には悪いと思いつつ、ずっと隼人の姿を追っていた。
「…、でも隼人はお前を好きじゃない。
わかるか?隼人が好きなのは、鈴、だ」
「そんなの…っ」
改めて人に言われると、泣きたくなる。
見ないふりしていた事実を突き付けられた気がして。
両想いの二人に恋慕している自分が、愚かだと言われている気がして。
「昨日、あいつらは寝たらしいぜ」
「…え…、」
「セックスした、って言っているんだ。隼人と鈴が」
「セックス…、」
鈴と…、隼人が…?
ずっと、幼い頃から一緒にいた二人が…?
「嘘…、だって…、鈴は…まだ」
「鈴はまだ子供だって?鈴だって、男だろ、好きな相手と出来るんだ、ぱっとやっちゃったんじゃねぇの…」
「…だって、」
だって…。
二人が例え両想いでも、そんな性的なことはしないとどこかタカをくくっていた。
鈴は抱かれたりしない…と。
(隼人さん…!)
この裏切られたような気持ちはなんだろう。
裏切られた、など、二人はただ愛し合っているだけなのに。
どうして…
どうして、こんなにも…。
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