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「ん…、」
そっと、瞼を開ける。
けだるい身体。倦怠感が溢れている。
身体を動かすのが酷く、おっくうだ。
里桜はふぅ…、とため息を零しながら、布団をめくり身体を起こす。
「ここは…」
あたりを身渡し…見慣れない部屋に呆然と固まる。
「起きたか…」
「せん…せい…、」
疾風の顔を見た途端、昨夜の痴態が蘇る。
疾風の手を求めてしまった自分。
そんな自分を見て、疾風はどう思ったか…。
ちらり、と疾風を盗み見ると、疾風は至っていつもと同じ、飄々とした顔をしていた。
からかう風でもない。
「いま…何時…?」
「9時。まだ寝ててもいいぜ?」
「いい…帰る…鈴が待っているし…、」
そういって、里桜はベッドから降りる。
しかし降りた途端、疾風が里桜の腕をつかんだ。
「先生…?」
「里桜、」
いやに真剣な疾風の顔。
刹那、どうしてか、胸が一つ大きく跳ねた。
「里桜、今まで黙っていたが…お前に言わなきゃいけねぇ事が多々ある」
「言わなきゃ…いけない、こと…?」
何の話だろう…。
里桜は疾風の真剣な表情に身構える。
「鈴の事だ…」
「鈴の…?」
「そう…、あいつの、事…。お前、鈴が誰を好きか…知っているか?」
「鈴が…、誰を好きか…」
そんなもの、知っている。
鈴は、昔から、隼人さんが好きだった。
ずっと、見てきたから、わかる。
毎日のように貰ったストラップを大事にして、あのストラップを隼人さんの代わりにして。
自分はもらえなかったストラップ。
欲しいのにもらえないストラップ。
まるでそれは、隼人の愛そのものだった。
鈴にはあげられて、里桜にはあげられないもの。
「そんなの…。でも…」
「俺も、知っている…。ずっと見てきたからな…」
「ずっと…?」
「お前は知らないかもしれない。でも、俺は陰でお前たちの事、ちゃんと見ていたんだぜ。お前らは隼人ばかり見ていて俺には気づかないようだったけどな…、」
「そう…なの…、」
そういえば。
ふと、里桜は疾風と初めて性的な悪戯されるきっかけになった日を思い出す。
あの時、疾風は鈴に劣るも、可愛らしい顔をした男の子の相手をしていた。
それに…、疾風は何かと里桜の前では、鈴の話を出しては可愛いと言っている。
(…鈴が…、好きなのかな…。可愛い猫が好みのタイプって言っていたし…。)
鈴が手に入らないから、双子の自分を代わりにしたんじゃないか…?
鈴は、隼人しか見ていないから…。
「ずっと、本当に見てきたの…?」
「ああ。だから、お前たちがこの学校に入学してきたときは驚いた。…制服姿を見て…その、むらむらした…」
「むらむらって…、」
「これでも、ちゃんと大人なんでいきなり襲いかかる様な真似はしなかったけどな」
「当たり前…、」
鈴は貞操の危機だったのか…。鈴は可愛いもんな。
俺と剛がいなかったら今頃先生とこうして変なことしているのは鈴だったかもしれない…。
すっかり、疾風がずっと見てきたのは鈴だと思い込んでいる里桜はそんなずれた考えにいたる。
逆に、里桜にずっと見ていた…といった疾風はすっかり自分の気持ちを伝えたものと思い、らしくなく顔を赤らめ、言葉を探している。
「そ、その…だな…」
(みんな、鈴ばかり、なんだな…)
隼人も、疾風も。
みんな、鈴ばかり。
『里桜なんか、大嫌いだ』
昔言われたあの言葉が、里桜の心を後ろ向きにむしろ向きにしていく。
愛されるのは、鈴だけ。鈴だけしか愛される資格はない。
自分は鈴の代わりなだけ。
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