鬼畜狼と蜂蜜ハニー里桜編 | ナノ


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「お母さんが変な事云うから!」
「あら里桜冗談よ〜って、でも鈴は小さい時から『隼人兄ちゃんのお嫁さんになるの』って、そりゃもう金魚のフンみたいに隼人さんにくっ付いて〜」

そんなこともあった。
そんな鈴に里桜もくっついて、隼人と話して少し幸せに浸って…。


「そういえば、薫さんが鈴に『男の子はお嫁さんになれない』って云ったら、鈴泣き出して大変でした」

その鈴を慰めるのも、里桜の役目だった。
素直に泣く鈴に対し、里桜はいつも素直になれず、我慢してばかり。



 隼人は幸せそうに眼を細め、鈴を抱いたまま外へ向かうのを、晴臣と薫が見送りに出た。

それを、里桜は何も言わずに見ていた。
静かに、ただ見つめていた。


「馬鹿、みんじゃねぇ…」

ふと、里桜の視界が覆われる。
大きな手で。

「辛くなるだろ…」

優しい、その口調。
一瞬、隣にいるのが誰だったか忘れるほど普段とかけ離れた、口調。

意地悪な疾風なのに…いきなりどうしたのだろうか。
ラブラブな二人を見せないようにするなんて。


「あいつら、見たくないだろ…。俺もだ。だからお前は俺についてくればいいんだよ」
「……」
「見たくなければ見なければいい。
お前は俺だけ考えていればいい。そしたら、あんな二人を見なくてすむ。

だから、お前はついてくればいいんだ。何も考えず」
「…うん…」
「よし、」

疾風は里桜の目元を覆っていた手を外し、里桜の頭を撫でた。
里桜は眼を瞑り、大人しく疾風の手を受けていた。


 隼人と鈴を見送ったのち、疾風と里桜も母親たちに別れを告げて、タクシーを待つ。
行先は、ここから一番近い疾風のアパート。

里桜も、一度だけ、連れて行かれたことがある。
一人暮らしにしては、部屋の間合いと言い数といい、申し分ない程度のアパートだった。
新任教師の給料でよくこんなところに住めるな、と思うくらいの…。

聞けば、そのアパートは小早川≠フ所有のもので、疾風は大学時代から借りているんだそうだ。



 散々、自分は一人で帰れる、と疾風にいったのだが疾風は聞く耳ももたない。
それどころか、嫌がる里桜に、「いいから、黙っていろよ」とにやついていた。


「生徒会なんて、嘘ついて…、」
「ああ?こうでも言わなきゃ、お前一人で帰ったじゃねぇか。

母親にああいっとけば、優等生の里桜ちゃんは、断ることはできないだろ?」
「…、」
「ほら、行くぞ」

二人の元へ、タクシーが一台やってくる。

疾風は先に無理やり里桜を押し込んで、タクシーの運転手に目的地を告げた。

運転手は、告げられた場所を確認し、アクセルを踏む。
里桜は、窓の方へと視線をやり風景を見つめていた。


隣に疾風がいる。
でも…、話すことなんてないし、疾風だってわざわざ自分と話すことなんてしないだろう。

自分を呼んだのは…どうせまたいつもみたいに悪戯目的の為なんだから。ただ堅物な里桜の反応を見て玩具のように楽しみたいんだろう。

里桜はずっと、疾風の方を見ずに窓だけを見つめ続ける。


「里桜、」
「…っ」

ふいに、里桜の肩にかかる重み。
首を横にやれば、疾風が里桜の肩に頭をおき、身体を預けていた。

思いがけない近距離に、ドキリ、と胸が跳ねる。


「せんせい…」
「ついたら、教えろ…。酒飲んだんだ、ねみぃ…」
「眠いって…」
「少しの間、我慢しろ…」
「我慢って…」

狭い室内、こうやってよりかかれれては、逃げ場はない。
しかたなく、里桜は疾風をそのままにしておいた。

時折、疾風の端正な顔を盗み見ながら。

 (なんで、先生は、俺のことからかってくるんだろう)

疾風の端正な顔を見つめながら、ふと、里桜は思う。

(俺なんて…からかっても面白くもなんともないのに…)

自分は鈴と違って可愛くもなければ、素直でもない。
あまのじゃくだし、生真面目過ぎて、どこか近寄りがたいと言われる。

鈴の周りには、沢山の人が溢れてくるのに、里桜の周りはあまり人が寄ってこない。

それは、里桜の纏う空気が、高値の華のように簡単には近づけないような空気を纏っているせいなのだが、里桜はソレを、人から疎まれていると勘違いしている。


(嫌い…だから…かな。俺のこと…)

チクリ、と胸が痛む。
覚えのある、胸の痛み。

昔、鈴と里桜と仲のいい友達がいた。
その人は、鈴と里桜を連れ出し、沢山危険な場所や楽しい場所へと二人を招いてくれた。

鈴は当然、自分が知らない場所へ連れて行ってくれるその子が好きだったし、里桜も危険な目に合う事を嫌だと思いながらも、その子の人柄に魅かれ一緒に遊んでいた。

ある日、その子が川へ遊びに行こうと二人を誘った。
その日はたまたま、台風が近づいており、川は増幅していた。
しかし、天気は晴れていた為、その子は大丈夫だと、二人に言い募った。

自分たちはまだ子供だ。鈴に何かあったら、どうするつもりだ。

当然、里桜は、それに反対した。そしたら。


「里桜はいつもそればっかだよな。真面目クンっていうかさー」
「俺は鈴だけと遊びたいのに、いつも金魚のふんみたいにくっついてくるし」
「鈴と違って可愛くもないのに」
「本当に双子なの?顔は似ているけど、全然違うじゃん。鈴は可愛いし大好きだけど、俺里桜は嫌いだ」


そう、友達は、吐き捨てて、鈴の腕を引っ張ってる。
しかし、鈴はその場から動かないで、キッとその友人を睨みつけた。


「兄ちゃんを悪く言うな、」

何を言われたかよくわかっていない鈴だったが、里桜を馬鹿にされたことはその口調で理解したらしい。ぶんぶん、と上下に掴まれた腕を振り、掴まれていた腕を取る。

「…なんだよ、里桜なんか、里桜なんか鈴のおまけの癖に!里桜なんか…」

(里桜なんか…)

「大嫌いだっ!」






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