鬼畜狼と蜂蜜ハニー里桜編 | ナノ


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「御馳走様、」

ぐったりとたおれるくらいに弛緩する、身体。
力が抜けた里桜を支えながら、にやりと疾風は意地悪く笑った。
里桜は疾風に抱かれたまま、はぁはぁ、と熱い息しか零せなかった。








 トイレで綺麗に里桜が出したものを処理した疾風は、何食わぬ顔で、席に里桜と戻る。

「あれ?兄ちゃん…?なんで先生と…?」
「トイレで気持ち悪くなってたんでな。俺が介抱してやった」
「え?大丈夫?にいちゃん」
「う、うん…」

よくもいけしゃあしゃあと嘘がはける。
無言の抗議とばかりに疾風を睨みつけるが、疾風はふっと口端をあげるだけだ。

隼人は何があったのか、疾風の様子で大体見当がついたのだろう。
兄の悪い癖にはぁ、とため息を零した。


それから、2時間。
相変わらず薫たちはラブラブ、で、鈴と隼人もお互いいちゃいちゃと仲睦まじく喋り合っていた。

なのに、自分は…。
こんな大っ嫌いな担任と…

一人だけ、暗い顔をしている里桜。
一人、どよんとした、空間にいるようだ。


「なんか機嫌悪いわよね…疾風さん来てから」

母が小声で、鈴にそう話しかける。

里桜はちゃんと聞いていたものの、なんと答えていいかわからず、気づかないふりをした。
何か言えばふとしたきっかけで、二人の関係がばれてしまいそうだから、だ。


「鈴、ジュースのおかわり頼もうか」

隼人は甲斐甲斐しく鈴の世話をしてくれる。
鈴の世話をするのがよっぽど楽しいのだろう。

「大丈夫です隼人さん」

鈴も鈴で、そんな世話を焼かれるのが嬉しいようだ。
隼人の前では、ニコニコと、笑みが絶えない。


 豪華な食事と軽い談笑。気づけば料亭にきてから3時間過ぎていた。
食事会ももう終わりにちかいだ。。

薫と晴臣が会計から戻ると

「タクシー呼んだから、里桜は鈴と帰ってくれる?」
と、支持する。

「え、あぁっはい」

ようやく、この気まずい空間ともおさらばだ
と、里桜がホッとした刹那、

「薫さん、生徒会の事で里桜と打ち合わせが有りますから、里桜を借りますよ」

にっこりと人好きしそうな顔で、疾風は薫に微笑んだ。

「…っ!?」

当然、里桜は疾風を睨む。生徒会のこと、なんて、絶対に嘘だ。
打ち合わせなんて聞いていない。
今は行事も立て込んではおらず、わざわざ話することもない。

だが、薫はあっさりと疾風の嘘を信じてしまったようで。

「あらそうなの?」

嬉しそうに里桜に尋ねた。

「………はい」

少し逡巡した後、里桜は俯きながらもそう答えた。
違う、といえば、自分たちが犬猿の仲だということがばれてしまう。

ばれたらばれたでもいいが、最悪、この再婚はなくなってしまう。
母が再婚するのは嫌だが、晴臣院長はこれ以上ないほど良物件だ。
この人を逃せば、母はまたいつ再婚できるかわからない。


「鈴は私が面倒見ますから」

疾風に続け…とばかりに隼人が薫に告げる。


「あら隼人さん、いっそ嫁にでもあげちゃうわよ〜」
「母ちゃん!?」
「ほんとですか…、可愛いお嫁さんを頂けて光栄ですね…」

鈴は真っ赤になって狼狽え、里桜は顔をひきつらせた。

隼人と薫は冗談とも付かない会話を繰り広げている。
結納はどうの式は何時だのと。

自分だって、隼人が好きなのに…。
はたから見たら隼人と鈴はまだ付き合ってすらいないのに、結婚などと…。
ついて行けないとばかりに里桜は立ち上がった。


「お母さん、鈴は男の子ですよ?鈴が固まってるじゃないですか」

見れば鈴は薫の隼人への結婚話に慌てふためいて眼の前にあった酒を一気飲みしていた。


「ひっく」

酒をのんですぐにしゃくりをあげる鈴。
顔はほんのり上気して、口は半開き、な鈴はいつもと違い少し色っぽい。

「やだ鈴!」
「すげー」
「鈴!」

疾風は可笑しそうに笑い、対照的に隼人は慌てる。
流石は医者だろう。

晴臣に至っては、急いで鈴の真横に行き、脈を測った。


「隼人、お前も悪乗りし過ぎだ」
「すみません父さん。薫さん、このまま鈴を連れて帰ります」
「助かるわ、ありがとう」
「ふよ〜ふわふわ♪」

ついには可笑しな歌まで歌い始めた鈴。
こうなったら、タチが悪い。
昔、お正月にお屠蘇をのんで同じように酔っぱらった鈴は、ひたすら人に絡みつきながらフェロモンを垂れ流していた。
『にぃちゃーん』と言われ里桜も何度唇を奪われそうになったことか。


自分がやはり一緒にいたほうがいいだろうと鈴に言おうとしたが、その前に隼人は鈴を易々と抱き上げた。

「はやとさん…」
鈴は全身を紅く染めて、抱き上げる隼人を上目使いで見詰める。

鈴の視線はまさに恋するものの、視線だ。
鈴自身気づいているのだろうか。

隼人に対する気持ちが愛なのか、それともただの憧れなのか…。

鈴は潤んだ双眸を閉じて、甘えたように隼人の肩に頬を擦り寄せた。





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