鬼畜狼と蜂蜜ハニー里桜編 | ナノ


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きたばかりの里桜と鈴の前に次々に洗礼されたスタッフが料理を運ばれる。
懐石料理が並べられた物を見て、鈴がお腹を鳴らす。


「腹減った…」
「鈴はホタテが好きだよね」
「うん」

自分の分の、焼いたホタテを鈴の手取り皿に移す。
鈴は、にこにこと笑い、ありがとーと、礼を言う。


「里桜君も遠慮せずに食べるんだよ?」
「…はい…」

院長に言われ、里桜は割り箸を開く。
鈴はもうこの場所に慣れたのか眼を輝かせて割り箸を持って、始終笑顔だ。
それを隼人は愛しそうに見守っていた。

なのに自分は…、この場が落ち着かない。

母に、鈴。

それぞれ知り合いの…愛しい人がいるからか、とても幸せそうなのに。
なのに、自分はどこかおいて行かれたような気分になっている。

(馬鹿馬鹿しい…、僻んでいるのか…。)

隼人が誰を好きなのか、里桜は知っている。
言葉にはしていないにしろ、態度でわかる。

だからこそ、隼人が里桜を見ていないことも、ちゃんと理解はしているのだ。

それでも、自分は…隼人が好きなのも。

唇をキュッと噛み締めて、里桜は半分に調理されたロブスターをつついた。


「おにいちゃん、ロブスターあげる」

里桜が海老が好きなの鈴は覚えていたのだろう。へへと笑いながら、皿を寄越す。
さっきのお返しも兼ねているのだろうか。

里桜は微笑して「サンキュー」と応えた。


「でも良かったわ。あんた達年頃だからちょっと心配してたのよね〜晴臣(はるおみ)さん」

薫は、向かい側に座る夫・晴臣を見る。
院長もにこにこ笑いながら、うん、と頷く。

「そうだね。2人共ありがとう。君達には新しいお兄さんが2人出来るし、賑やかになるよ」

「「2人?」」

里桜と鈴が顔を見合わせる。二人。
隼人のほかに、もう一人、兄が出来る。

それも、小早川の名のつく…。

「嫌な予感がする」

小早川の名のつく人間を、自分はもう一人知っている。
その人も、隼人同様に顔がよく、隼人や晴臣院長と並んでも霞まない美貌を持っている。

しかし、隼人とあの人が兄弟、と聞いたこともなければ、性格もまったく違う。

ありえない。
そうだ、ありえないんだ。

里桜は必死に自分にそう言い聞かせ、浮かんできた考えをなくす。
しかし…

「あ〜ったく道混みやがって」
「噂をすればだ。もうひとりのお兄さんが来たよ」

ガラッと襖を開けた男が面倒臭げに入って来る。
鈴は持っていた箸を落とし、里桜は真っ青になってまたも絶句した。

よく知る、声。ゾクゾクするような、色気を帯びた…声…。


「せ…せんせ?」
「遅いじゃないか兄貴」
「全くだわ、疾風さん」
「………よう、双子共」


新たにきたのは…里桜と鈴の担任教師、小早川疾風だった。
里桜はただただ、やってきた疾風を凝視する。

凝視したところで、何も変わりはしないのに。
それでも、目の前の人物が幻ではないか、つい凝視してしまうのだ。

「母ちゃん、先生が院長先生の息子って」

鈴は里桜を通り越して薫を振り尋ねる。
母は、うふふ、といたずらっこのように笑みを浮かべ、

「知ってたわよ〜。云いたいのを我慢したかいがあったわ。びっくりしたでしょう?」

と告げた。
びっくり、なんてものじゃない。

顔面蒼白。心臓が止まるかと思った、と里桜はおちゃめに笑う母親を妬ましく思う。

隼人と疾風が兄弟、だなんて。
隼人に会いに度々小早川医院に鈴といったが、もしかしたらそのとき疾風もいたのかもしれない。

「頭真っ白です」
「なんだ、黙っちまって、里桜」


疾風が鈴の頭をぐしゃりと撫でて、里桜の向かい側に腰を下ろした。
なんだって、自分の前の席なんか…、里王はちらりと疾風を見つめ…

「…っ、別に」

不機嫌に、ロブスターを箸でグサリと刺した。
最悪だ、と思う。
母の再婚することも嫌なら、疾風が兄になるのはその数倍我慢ならない。


小早川院長と再婚、隼人が兄ならまだ耐えられるし、母の幸せを願える。
院長である晴臣は優しいし、隼人は昔から好きだった人。
家族になるのは、大賛成だ。
でも…疾風は…、疾風だけはいやだ。


里桜の不遜な態度に気付いたのか、疾風は席につき、にやりと笑う。

そして…

「っ!」

いきなり手前に座る里桜の膝を撫でた。

(…なにを…)

テーブルの下で、里桜の膝を撫でているので、鈴や両親からは当然、見えない。
けれど…

(こんなこと、やって…もし…ばれたら…)


自分と疾風が、いやらしいことをする関係だと…もしも万が一、ばれたら…
途端、頭が真っ白になる。


自分が好きな隼人には当然知られたくないし、ほわほわした空気の自分の片割れである鈴にも知られたくない。


里桜は先ほどにもまして、きつく鋭い視線で、疾風の手を咎めるように睨む。
疾風は飄々と、皆の会話に加わり、時折、里桜へ戯れるように膝を撫でる。
膝だけでは飽き足らず、時たま己の足を延ばし里桜の足を触れる。
悪戯のような、戯れ。

鈴は息を呑んでそんな二人を見守り、薫が一方的にしゃべり続けた。
母親の再婚、その相手が小さい頃から知っている小早川院長。
そして、小早川院長の息子の隼人。それから、隼人の兄の疾風。

なんだか、いきなり衝撃が立て続けにやってきて、どうも頭がパンク寸前だ。
頭がぐらぐら、として気持ち悪い。




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