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「里桜、なんで、今日不機嫌なんだ?」
散々口づけた後、耳朶を甘く噛みながら、疾風が問う。
ゾクリ、と甘い疼きが身体を侵食していく。
甘い、ぞくぞくした、甘美な感覚。
里桜はそれに引きずられまいと、キッと疾風を睨み、
「あんたには関係ないだろ…」
と吠えた。
身体は未だに力が入らないため、疾風に抱かれたままの形になっているので、酷く様にならない。
しかし、素直に疾風に言うのはプライドが許さないのか、しっかり抱きとめられているにも関わらず、きつく疾風を睨んだ。
「またそんな…、可愛くネェなぁ…。ま、どうせ、お前のことだ、鈴がらみだろう?」
「……」
「お前が怒る事といやぁ、鈴くらいなもんだもんな。
模範的優等生だから、教師とかにも喧嘩売らないらしいし…いい生徒会長様なんだろ?」
「…、」
「ビンゴ、か。鈴は可愛いからな。また誰かに告白されでもしたか?」
鈴、がらみなのだろうか。まぁ、鈴も関係あるけれど。
自分がこんなに不機嫌なのは、母親の再婚のことだ。
母親が、誰か別の人のものになってしまうから。
正直に答えてやるのも面倒な里桜は、そのままぷいっとそっぽを向く。
そんな拗ねた里桜の行為に疾風は苦笑し、里桜の頭を撫でた。
「ま、いいや。っと…」
「え…」
突然、何を思ったかひょい、っとまるで荷物を担ぐかのように疾風は里桜を抱き上げた。
「なっ!」
華奢な里桜は、易々と疾風に担がれ、地に足が浮いた状態になってしまった。
まるで荷物、いや米俵…。
当然、いきなり担がれた里桜はまるで毛を逆立てた猫のようにフーフーと唸っているかのように怒る。
「なにすんだっ」
「暴れんな、っと、お前、そんなんで授業受ける気か?」
「そんなん?」
里桜は疾風の言葉に小首を傾げる。疾風は、はぁ、っとわざとらしく溜息を零す。
「目潤んで、頬上気してて…いかにもやってましたーみてぇな色気出てるぜ?
どうせ、腰だってさっきの愛撫でイって、まだ力はいんねぇんだろ?
保健室連れてくから、ちったぁ休め」
「だ、だけど…」
こんな姿誰かに見られたら…、それこそ自分たちの関係が何かあると勘ぐられてしまうのではないか…。
「こんな、誰かに見られたら、」
「今は、ホームルームだろ、っとに、お兄ちゃんは弟と違って細かいんだからな…。
見たかったら、見せりゃあいいだろう。ついでに保健室でも一発やっていくか?」
「なん…」
「どうせ、誰かに見られたって、また俺の悪い虫が出た、で終わるだろ」
「…、」
悪い、虫。手癖が悪い、疾風。
そうだ、疾風はこういう男だ。
男を何人も手玉にとって、浮世を流す…。
疾風にとって、里桜にしてきたことは、ごく普通の、玩具に対するかのようなそれなのだ。
こんな関係になるあの時だって、可愛い男の子とキスしていたのがいい証拠だ。
そういえば、あの子とは疾風は、まだ続いているのだろうか…。
自分には、関係なんてないけれど。
でも、あの子が疾風に本気だったらと思うと、自分にこうしてちょっかいを出している疾風が本当に嫌なやつだ。
今まで手を出した子に刺されても文句は言えないだろう。
「あんたには、本気の相手なんていないのか?」
「あんたじゃねぇだろ、ご主人様に…。せめて担任と呼べ。荷物め」
ゆっくりと保健室へ歩きながら、疾風は担いでいる里桜に言う。
里桜は、暴れても無駄だとわかったのか、大人しく担がれたまま、だ。
「あんたは、何が楽しいのか俺を玩具にして。そんな玩具で遊ぶの楽しいか?」
「玩具…ねぇ…」
「あんたは、人を本気に好きになったことがないんだろう?だから、俺に、こんなこと…出来るんだろう」
「ふぅん?そうだ、とでもいえば満足なのか?お前を玩具にして楽しんでる、っていえば」
「そうじゃ…ないけど…」
「じゃぁ、黙っとけ。俺の考えなんてどうだっていいだろ」
「そ…だけど…」
きゅ、と唇を噛む。
変な体制で担がれているため、どうも気持ち悪い。
里桜が唇をかみしめ、黙っていると、疾風は小さく舌打ちをする。
「馬鹿が…」
苦々しく零す言葉。
その時の眉を寄せて、酷くつまらなそうな顔をした疾風の顔を里桜は知らない。
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