鬼畜狼と蜂蜜ハニー里桜編 | ナノ


  レプリカ。


*里桜side
剛が鈴と雑談している時同じ深夜未明、里桜は柊といた。
寺院内にある6畳ほどの使われていない部屋を借り、今の今まで雑務に追われていたのだ。
もっぱら、頭を抱えるのは鳳凰の話である。
傲慢に言い放った鳳凰の言葉。


「宝生まで、鳳凰の味方をするなんてな・・・」
「味方ではなく、中立を保つと言っていましたが…」
「中立ね…」

皮肉混じった口調で里桜は笑う。

問題は山積みだ。
そもそも、当初の目的は宝生とのこれからの両校での付き合いを話し合う筈だった。
宝生とは兄弟校故に何か一緒にすることも多く、毎年文化祭などわざわざ宝生の生徒が手伝いに来ることもあった。
宝生生徒はのほほんとしたどこか独特な生徒が多いが、その分スポーツや文化面など才能溢れた生徒が多数在籍している。

今までは、部活動など宝生と練習試合をしたり、お互いに切磋琢磨するいい関係であった。


「秋には文化祭があるっていうのに…」
「問題は山積みですね。ただでさえ、文化祭で大変なのに。
そういえば、里桜。里桜の弟くんは・・・、失礼ながら今の再婚相手のお子さんですか」
「弟・・・?鈴?」

里桜は柊へついっと視線をあげる。


「いえ、もうひとりの」
「ああ、母さんの…お腹にいる方。再婚相手の子供だよ」
「再婚相手の子供・・・。性別はもう・・・?」
「うん。男の子だって」
「・・・へぇ・・・」

薫の腹もだいぶ大きくなってきたし、お腹の子供は活発な子供らしくよく薫の腹を蹴っているらしかった。
よく薫と晴臣が仲良さげにお互いを見つめ合いながら微笑んでいた。
それはまるで、幸せな家族の絵。

だけど・・・。

「赤ちゃん生まれたら・・・ちゃんとお兄ちゃんできるかな」
「不安ですか?」
「・・・まだ・・・ね。複雑な思いもあるから。母さんの父さん・・・いい人なんだけどね。俺にも鈴にも優しくしてくれる・・・」


晴臣は優しい。薫にも連れ子の里桜にも薫の実の子供でない鈴にも優しい。
けれど、どんなに納得しようとしたところで納得できない部分もあるのだ。


鈴が寂しそうに、そんな薫と晴臣との家族の一員に里桜を入れ、遠ざかりそうになるたびに自分も逃げ出したくなる。

薫と晴臣の中に、自分は入れない。
薫にどこか壁を作っている自分は、そこには入れない。
鈴がいて、初めて自分たちは偽りの家族だったのに。

 過去のトラウマには別れを告げたつもりだったが、まだ母親とは向き合う勇気がない。
小心者の自分に、気分が重くなってしまう。

鈴には、本当の家族がいる。
自分にも血の繋がった母親の薫がいる。
血が繋がっているからこそ、鈴のようにどこにも逃げられないのだ。


「ねぇ、光。やっぱりさ、血が繋がったもの同士がいるのが一番なのかな」
「というと?」
「鈴はどういう選択をするのかなって、思って。親を選ぶのか、育てた人間を選ぶのか、それとも愛した人を選ぶのかって・・・」


遅かれ早かれ、鈴には決断の時がくる。
ずっと一緒、だなんて無理なのだ。

いつかは、子供は親の元を離れなくてはいけない。
いろいろと選択しなくてはいけないのだ。

もう子供のままでもいられない。
自分の意思で立ち歩かなくてはいけないのだ。

「鈴君はあれでいて聡明ですから。きっと、いい答えを出してくれますよ。」
「そうかな」
「そうです・・・。それに、鈴くんは特にタイムリミットもありませんしね。自分がいいように進むと思いますよ。
それに鈴くんはあれでいて、すぐ決断してしまうでしょう。ぼけぼけしている割に、潔いですからね。彼は・・・」
「そう・・・だね・・・、」

ピルルルル。
突然、電子音が部屋に響き渡った。

柊は失礼、とひとついい、ポッケから携帯電話を取り出す。

「もしもし・・・え・・・、はい。はい。え・・・、あの・・・」

二言、三言会話を続け、柊は電話を切った。


「光・・・?」
「・・・すいません、里桜、あの・・・」
「光・・どうした」

 柊にしては珍しく落ち着かない、戸惑った、忙しない様子だ。

「僕は、この合宿で、一足先に帰らなくてはいけません・・・」
「え・・・?」
「父が・・・、倒れました・・・」










*****
(???)


「ねぇ、この世で一番正しい物って、なにかわかるか・・・?」

男は妖艶に、同じベッドに腰掛けている己の腹心の男に声をかける。

「なんですか、いきなり・・・」

「とっても愚かな人間がいてな。
なにが真実かわからない癖に、馬鹿だなぁって思って・・・な・・・」

「はい・・・?」

男の唐突な言葉はいつものことだ。
いつもその話半分もわからないことが多い。
声をかけられた男は、小首をかしげながら男を見つめる。



「もがく人間はとても愚かだよ。
とても・・・バカバカしい。全てそいつの実力じゃなく、決められた道をただ沿っているだけなのに。作られた話を進めているだけなのに・・・な。なのに、自分の正しい道を取ろうとしている。何も知らないのに。
その人間を壊すのって、とても面白いことだと思わないか・・・?」



男がベッドから立ち上がる。
パサり、と布団が地面に落ちた。


「・・・なぁ、上条貴博・・・」


クスクスと笑う。
その視線は、黒い炎が燃えていた。


「お前が見ている世界は全て偽り。
おまえが信じている道は、俺が作り上げたんだよ・・・、この俺が、な・・・」



真実を知ったとき、一番絶望するのは、誰だろうか。
男は未だに真実を知らず、自由に飛び回っている小鳥たちを思い、クスリと笑った。



「魔法の言葉を言えば、簡単に壊れてしまう。
そう、たとえば・・・、「お前の息子は、本当にお前の息子か?」なんてな・・・」

冷たい、突き放したような笑みで。



「俺と陸で、壊してやるよ・・・。すべてを。
その時、逃げた小鳥はどういう反応をするかな・・・」


当人さえも、知らない、秘密・・・。
誰も知らない秘密が、誰にも知らずに動いていく。

来るべき時を待って。




*********


(里桜side)
結局、合宿は散々だった。
途中、柊は家に帰り残された役員たちは、鳳凰・宝生と話し合いを連日続けたのだが、まともに話会いにもならなかった。


合宿の帰り際、里桜は天音陸に呼び止められた。

「ねぇ、知ってる?里桜さん」

里桜さん、と親しげに名前を呼んでくる陸に里桜は不快感から顔を顰める。
それに気付いた陸はニッコリと笑いながら、

「名前呼んじゃダメだった?だって、同じ名前だし・・・」
と、肩を竦めた。

「いや、別に・・・」
「そ・・・良かった。あ、そうそう、里桜さん。知ってる?鈴くんの、こと」
「なに・・・」

唐突に鈴のことをいう陸に、里桜は構えた。
『レプリカのくせに、偽者のくせに…僕の愛しい人の側にいて。ただの…ゴミの癖にさ…』

あの日の、冷たい言葉が、今でも里桜の頭の片隅にあったからだ。

「鈴が、なにか・・・?」

探るように、尋ねる。
相変わらず、陸はニコニコと笑みを浮かべたままだ。

「あ〜、うん。鈴くんね・・・、今度母親と会うみたいだよ。それから、父親とも」
「母親と・・・?」
「そ。実の母親と・・・」

意味深に言葉を潜める陸。
実の母親。鈴が里桜の双子じゃなく養子だと知っている人間は少ない。
鈴と里桜の仲がいい人しかしらない筈だ。
もしくは、母親か父親関係者か。
なんにせよ、あまり他人が知らない事柄なのに・・・。
里桜すら、最近まで鈴と実の双子だと思っていたくらいなのに・・・。

どうして、この人は知っている・・・?
何故、鈴と里桜の秘密を知っているんだ・・・?


「何故・・・そんな、こと・・・」
「嘘だと思う?ま、それも君の勝手だよ。ねぇ、里桜さん・・・」

陸は里桜の耳元に顔を寄せ、


「血の繋がった家族は、どんなことがあっても惹きつけられ愛し愛される運命だよね・・・。
たとえ、どんなに離れていたとしても。どんな・・・捨てられた過去があっても。
何があっても、許しちゃうんだよ・・・。
偽物なんか、あっという間に忘れちゃうんだよ・・・所詮、レプリカ≠ネんだもの」

そう一言残し、去っていった。

「所詮、レプリカ・・・」

里桜は陸が残した言葉を呟く。
その言葉に、誰も返事を返してくれる人はいなかった。





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