鬼畜狼と蜂蜜ハニー里桜編 | ナノ


  合同会議


*里桜side*

3校合同会議は、寺内にある、一番大きな部屋で行われる。
里桜たち王蘭の生徒会は会議が始まる30分前にその部屋にたどり着いていた。
それぞれ制服を身にまとい、ほかの学校が来るのを待っている。

「あちらさんが、俺らになんていうのかなぁ〜。今更、去年はごめんねっていうと思う?」

苦々しく双葉が零し、疾風が眉間に皺を寄せる。
ごめんと言われても、どうしようもないし、今更…といった感じだからだ。

今更、謝られたって被害にあった人間はやりきれないしあったことはやり直しはできない。

里桜を先頭に、生徒会メンバーはそれぞれ与えられた席に座った。
席にはご丁寧にそれぞれの名前がかかれた名札まで置いてある。

こういったセッティングは宝生の生徒がやってくれたらしい。

宝生の生徒は、王蘭と兄弟校にあるが、鳳凰とも仲が良くこうして間に入ることも多々あるという。
歴代の学校の歴史を見ると数年に一回は宝生との話し合いがあったようだ。


里桜たちが集まってしばらくして、妙にお気楽な空気を醸し出す宝生の生徒が集まった。それから10分後、時間間ギリギリになって鳳凰の生徒が姿を現した。


「…あ、昨日の」

鳳凰の生徒を見て、双葉が声をあげる。

「ドウモ」

双葉にぺこりと頭を下げる少年。
その仕草に里桜は背をまっすぐ伸ばし、警戒した猫のように警戒した。
少年は、双葉、小峰、里桜の順に一瞥すると、天音陸と書かれた席に座った。


天音陸。
それは、鳳凰の代表者に書かれていた名前。


「天音陸…、あれ…、鳳凰の代表の名前だよね…?君、代表なの」
「ああ、勝手に先輩たちが書いちゃって。俺、1年なのにぃ〜。ひどいですよねっもぅ」
「天音、」

低く鳳凰の一番端・生徒会長席に座る人間に咎められる。
天音陸はペロリと舌を出し、「こわいこわい〜」と、肩をすくめた。


「も〜、会長。会長が変な小細工するからじゃないですかぁ・・・」
「俺は、鳳凰会長、関根聖という。
他の人間は、名札にあるだろう?俺が3年、副会長・会計・書記ともに3年。あとは補佐に二人。九龍なずな2年と、天音陸1年だ」


いかつい、眉間に皺を寄せた強面の男が天音陸の言葉を無視し、慇懃に言う。

彼が、生徒会長らしい。

どこか慇懃無礼に言い放つ彼は、とてもじゃないが友好的には思えない。
傲慢に言い放った彼は、話し合いなどする空気にはなかった。
いささか気分が悪くなりながらも、里桜はそれを口にはせずに、コホンと咳払いする。


「俺は、」
「いい。自己紹介など必要ない。お前らと馴れ合うつもりなど毛頭ない。単刀直入に言う」

里桜の言葉を関根は遮った。
そして、

「王蘭を、我が校の支配下におきたい」

手を組みながら、回りを見つめ、一言言い切った。
低い声が、部屋を響き渡る。
言われた意味がわからない。
一同は投げかけられた言葉に呆然とする。

真っ先に正気になったのは双葉だった。

「は、はぁ…?し、支配下って、なに?」
「言葉通りだ」
「こ、言葉通りって…、支配下?なに、それ」
「去年のように、お前たちの学校を支配下にする、それだけのことだ…。
いや、それだけじゃないな。合併のこともある。
その話し合いに、お前らを呼んだ。それだけのこと。宣戦布告というものか・・・」

関根はそういって、手を組み直す。
投げつけられた一方的な支配的言葉に、一同は呆気に捕られた。

「去年…?」

壁に寄りかかり、生徒たちをみていた疾風はピクリ、と眉をあげた。
去年のように。
去年のように、またあの暴力的な行為が行われるというのだろうか。

「穏やかな話じゃねぇな…」

関根を見据えながら、疾風は言葉を紡ぐ。
しかし、関根は年上の疾風の言葉にも萎縮せず、それどころか鼻で笑った。
疾風はむっとしながらも、言葉を続ける。

「そもそも、こうして集まったのは、合同親睦会だったはず。それが、いきなり支配下なんて、馬鹿も休み休みいえ」
「だから、こうして話し合っている。これは、決定事項だ。事前に宣言があっただけマシだろう」
「マシって…」

突然の宣戦布告とも言える発言に、顔をしかめたのはひとりじゃない。

「…なに、言ってんだ」

困惑している一同をよそに、机を叩きながら小峰が真っ赤になって怒鳴った。

鳳凰の一番の被害者である小峰にとって、去年のようにまた鳳凰の暴行を繰り返すことは屈辱でしかないのだろう。


「何が支配化だ…。なにが…。去年、お前たちが俺たちの学校にしてきたこと、それをもう一度するってことか…。何のために…。なんの権利があってそんなことを…」
「知ってますか?争いは、同じレベルでしか怒らないのですよ」

激昂している小峰を遮り、静かに鳳凰側の副会長が切り出す。
おかっぱの、黒髪。
まるで日本人形のように綺麗な男だ。

鳳凰の学ランを着たその人は、本人の雰囲気も相まって明治か昭和の少年を彷彿させた。


「なん…」
「貴方たちは、何故、王蘭と鳳凰、仲が悪いか考えたことありますか。知りもしないでしょうね。一生徒ですから。」

クス、と唇をあげて男は皮肉っぽく笑う。

何故仲が悪いか、なんて知りもしない。
疾風も、去年も生徒会だった里桜も柊も。
誰も知らなかった。

里桜たちの戸惑いをよそに、鳳凰の生徒は淡々と語りだす。


「少しお話しますと、王蘭と鳳凰のいがらみは昔から、遡ると昭和の建設前からになります。

王蘭と鳳凰は立地的に近く、学力も同じであり、ライバル校としてはやし立てられていました。
相手校のいい功績が出たときは、悔しがり悪評がでればせせら笑う、そんな関係だったといいます。まぁ、今のようにそこまで暴力沙汰にはなりませんでした。

それが覆ったのが、5年前。
王蘭の生徒が、鳳凰の生徒を殺した事から今までの関係はより悪化しました」

「殺した…?」

鳳凰側の言葉に嘘だろう…、と疾風は溢す。
鳳凰の副会長は、静かに首を横に振る。


「ええ。殺されたんです。鳳凰の生徒は、王蘭の…、学校関係者に殺されました。

だから、鳳凰の理事長は激怒しました。

しかし…、事件は表沙汰にはなりませんでした。うまくもみ消したんでしょうね。

どうせ、事故とでも処理したんでしょう。
理事長はそれに怒りを感じ、復讐を誓いました。そして、去年。
理事長は君たち王蘭生徒会と理事長に言いました。
『君たちの学校を壊してやる』と。
君たちの理事長は笑っていましたよ。
去年の生徒会長も、笑ってました。やれるものならば、やってみろ…と…。
君たちは笑っていたんです。僕ら、鳳凰生徒に」

「嘘…」

「嘘だとお思いですか。そもそも、何故僕らとの話し合いができたのか。考えていただきたい。理事長からでしょう。君たちの理事長は僕ら、鳳凰のことなんて、考えていないのです。
いや、それどころか、ボクらを見下し嘲笑っているのかもしれない…」


学校パンフレットでしか知りもしない理事長。
鳳凰の男の話を嘘だと思いたいが、この場を設けたのは、間違いなく理事長だった。


「それに、僕らとしても仮想敵≠作るのは丁度よかった。
仮想敵がいれば、学校内の反発なんかがなくなりますから。僕らの学校は妥当王蘭で燃えてますよ。勉学も、スポーツも…。学生にありがちな性欲も、満たしてくれる存在がありましたから…。
僕ら、生徒会もこの暇つぶしのゲームに参加するのは楽しいんです。ぼくらは毎日に退屈していましたから」

男は、にっと口角をあげて意地悪く笑った。
小峰は青い顔をしたまま、唇を噛み締めている。


「理事長が悪いなら、理事長を摘発でもすればいい。
僕ら在校生には関係ない。勝手な私怨で、僕ら生徒を巻き込まないでくれ」

理事長が悪いなら、理事長を責めればいい。
もしも、問題が昔、鳳凰と王蘭の間にあったとして。
今の自分たちには何の関係もない。

もし、本当に王蘭関係者が鳳凰の生徒を殺めたというのが事実ならば、そりゃあ心も痛む。
だけど、それと学園を好き勝手に壊していいというのは、話は別だ。

何の関係もない、小峰や被害者達は事件に何の関係もないのだから。
理事長が焚きつけたとしても、在校生とたちは部外者なのだ。


「…ふむ。どうも僕らは蚊帳の外のようだねぇ…。悲しいものよ」

宝生の生徒会長がつまらなそうに、口を尖らせる。
どこかお気楽な口調に、場の空気が揺れた。


「これは、王蘭と鳳凰の問題だからな・・」
「ま、ウチは関係ないからいいのだがね・・・。

そうそう、さっき、合併≠ニ言っていたけれど・・・?君たちの学校、合併するの?」
「そういう話も出ているということだ。他でもない、理事長≠ゥらな」
「ふぅん・・・、理事長から、ね。楽しそうな話だねぇ・・・」


宝生はのほほんとしながら、王蘭生徒会を見つめる。
ことを楽しんでいるような姿に、双葉始め、あまり表情の変わらない柊までも、苛立たしげに眉をよせた。


「僕ら宝生は、邪魔はしないよ。味方もしないけれどね・・・。手伝えというのならば、協力もするけど、基本どちら側にも立たないよ、
王蘭は兄弟校で、鳳凰はいい関係を保ちたい交流校だからね」


宝生は、中立。
味方もしなければ、敵でもない。

宝生の生徒会長はそう言うと、後は我関せずで何も語らず、鳳凰と王蘭の話し合いを耳を傾けていた。


その日は、王蘭と鳳凰の平行線とも言える話し合いが続いた。
1年前のように、再び王蘭に奇襲をかけるという鳳凰と。
何故、そんな報いを自分たちが受けなくてはいけないのだと言う王蘭と。

結局話し合いは纏まらず、また後日ということになった。







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