鬼畜狼と蜂蜜ハニー里桜編 | ナノ


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もし、鈴と隼人が一緒ならば外にいるだろうか。
隼人は結局、外でホテルを取ったようだったから。

外で待っていれば、鈴に会えるかもしれない。

里桜がそう確信を持って外へ疾走すると、寺の前、疾風がいた。
手足を伸ばし、軽くストレッチをしている。


「先生、」
「あ?ああ、里桜。おはよ」

ニッコリと、極上の笑顔で微笑みかける疾風。
昨日までの笑と違う笑みに戸惑いながらも、「鈴、見なかった?」と尋ねる。


「鈴?ああ、さっき、隼人が送ってきたぞ。んで今、宿泊施設に戻ってるはずだ」
「入れ違いになったのかな」
「おそらくな。なんだ、鈴にようか?」
「…いや…、大丈夫だったなら、いい」

鈴のことは心配だが…、剛に注意したから、剛が見つけたら守ってくれるだろう。少なくとも合宿中は。

それに、自分がもしもの場合は、変なことをしないように、先ほどの男を監視しとけばいい。そうすぐには手も出さないだろう。


「鈴関係で、なにかあったのか…?」

尋ねる疾風に、なんといえばいいかわからず、口ごもる。
なので、かいつまんで

「えっと、鈴を思うシンパがいたって話?」
といえば、疾風はなんじゃそりゃと笑った。



「鈴が愛おしい子だって、宣戦布告されちゃった」
「はぁ?んとに、隼人に殺られてもしれねぇぞ、そいつ。
それに鈴のシンパ、なんて、いつものことだろ。無自覚フェロモンなんだからな。鈴と隼人は。全く困ったやつらだ」
「奴らはって…。先生もでしょ…。先生の場合は手も早い」


里桜の呆れた口調に、疾風は肩をあげてシニカルな笑みを浮かべる。

「…俺はなぁ…こんな性格だからな。まぁ、若い頃は遊んだが、本気なやつはいなかったよ…、お前だけ」

疾風は笑って、里桜の頭を撫でた。

ホストの疾風。生真面目そうな隼人。
本気な人間ほど、隼人の方にいってしまっていたから、疾風は隼人のように厄介事はたぶんこれから先ない…と、思う。

いや、ひとりだけ、厄介なのはいたが…。

疾風は厄介な相手を思い出し、顔をしかめ、口を手でおおう。


「先生?」
「いや、なんでもねぇ。飯食いに行くぞ」
「はいはい」

いつものように里桜は疾風を先生、と呼んでいたのだが、疾風も疾風でなにか別のことに頭がいっているのか、昨日のようにはとがめたりはしなかった。

「里桜、」
「はい…?」
「眼鏡やめたんだな…」
「ああ…元々伊達ですし…。でも、ポッケにはまだ入ってますよ」

ポッケから眼鏡を取り出す里桜から疾風は眼鏡をひったくると、里桜の顔につける。

「…先生?」
「お前の素顔を見ていいのは、俺だけだ。少なくとも、告白の返事を貰うまでは、ダメだ。他の奴がお前の素顔を見て好きになったらどうする」
「どうするって…、そんなことあるわけないのに…」

意外に、独占欲強くてお子様だ…。
里桜はむっと眉を寄せている疾風に笑いながら、疾風の手をとり握る。

「行きましょうか」
「お…?積極的?」
「…むくれるから、面倒なだけです。第一、俺は先生のセクハラで散々悩んだんですから。すぐには、先生が欲しがる答えをあげません」
「小悪魔め」
「なんとでも」

他愛ない会話を繰り返しながら、二人は手を握って宿舎へ戻った。



*小峰side*

小峰は天音鈴が嫌いだった。
どうしてー?

問われれば言葉にすることはできないが、答えは自分の中で出すことができる。

自分が、もう失ってしまったものを彼は持っているからだ、と。


昨年の生徒会の崩壊。一部の生徒の狂乱。

鳳凰が学校から手を引いたとき。

学校は荒れにあれていた。

あの時、信頼していた人から裏切られた小峰は人間不審に陥っていた。
いまの性格になってしまったのも、半分は一年前の狂乱≠フせいであった。
あの事件がなければ、もう少し素直な正確であったと思う。
何も寄せ付けなくなった小峰。
人間不信の小峰に、手を差し伸べてくれたのは…、


「小峰、」

食事を前に、里桜が青い顔をした小峰に声をかける。
小峰は箸を握ったまま、じっと盛りつけされた盆を見つめていた。

「大丈夫か…?」

大丈夫?
たぶん問われた言葉は、鳳凰とのこれからの話し合いのことだろう。

「ああ…」

顔をあげて、里桜を見つめると

「大丈夫だ」

小峰はしっかりと言い切った。

鳳凰との、溝。
その被害に一番あったのは、他でもない小峰だ。
その美貌ゆえ、小峰は鳳凰の玩具にされた…と聞く。
何人もの男に、その体を開き、性欲を満たす対象にされていた。

双葉も柊も里桜も深く話はしないが、皆、小峰のことは気にかけているのだ。


「俺は、奴らに落とし前をつけるために、ここにいるんだから…」
「小峰、」
「大丈夫だ、里桜。俺は、もう大丈夫」

ニッコリと笑う、小峰。

テーブルの端、双葉は何も言わず二人のやりとりを見ていた。





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