無口不良×平凡2
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From??さん
Sub(non title)
最近はもう寝てないですね
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名前も知らない誰かとの机上でのやりとりからメールへと発展し、俺達はいつでも連絡が取れる状態になったというのに、何故か俺達は1日1回だけしかメールを送り合わない。
そう言った訳でも、約束した訳でも無いのに、自然とそうなり、俺は送られてくるその1回のメールを毎日楽しみにしている。

先ほど送られてきたメールを何度も見返しては、そのたびに思わず顔が緩んでしまう。
未だに何処から俺を見ているのかはわからないが、メールの内容からして、今も俺を見ていることは明確。
そう思うと俺は自然と背筋が伸び、寝るどころではなくなった。
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To??さん
Sub(non title)
あなたのおかげですよ
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「最近お前、全然寝なくなったよな。偉いぞー」
「うぜぇからやめろって」
「褒めてやってんだから素直に喜べよー」
「いや、別にお前に褒めてもらわなくてもいいから」
ニコニコと笑って『よーしよしよし』とわしゃわしゃと俺の頭を撫でてくる友達に、最初は『やめろよ』と抵抗していたが、いくら言ってもやめる兆しが見えず、諦めてされるがままになっていると、不意に後ろから視線を感じた。
慌てて友達の手を振り払い後ろを見渡すが、俺達を見ている人は誰もいなかった。
最近、こういうことがよく増えた。
近い距離から誰かに見つめられているのに、誰なのかを確認する前にその視線は感じなくなる。
もしかしたらあの人なのかな?と俺は期待しているが、誰だか確認出来ない以上、断定はできない。

「?どうしたんだよ郁弥?」
「んー?なんでもなーい」
今日はいつもより強く視線を感じたから、誰だかわかると思ったんだけどなー。



お昼を食べ終え、あと数分で魔の時間を迎えるが、最近の俺は寝なくなったので、もっぱらこの時間はあの人の事を考える時間になった。
多分だけどあの人は男だと思う。
机上での会話の時はなんとなくそうかな?程度だったが、机上での最後の会話の時に書かれていた『俺もあなたの事が知りたいです』という一人称や、顔文字や絵文字の無い質素なメール。
そういう情報から今までそうかな?程度の予想から、絶対にそうだという確信を得た。
おかしい話かもしれないけど、まだ見たこともないあの人に俺は惹かれている。
初めて机の端の見えるか見えないかの位置にあった文字を見た時から、実は俺はワクワクしていた。
いつも寝てしまう俺を誰かが見ているんだとわかる内容に、何か楽しいことがこれから起こるんじゃないか、何か面白いことが起こるんじゃないかと、そんな不確かな予想に少し胸を踊らせていた。
別に非日常を求めていた訳じゃないが、つまらない月曜日の眠い5時間目をこの人が変えてくれるんじゃないかと密かに期待した。
だからあの時、俺は次の日には変わっていた文字に、少し不安になりながらも返事を書いた。
そんなくだらないキッカケだったが、机上での会話が進むに連れて俺は相手のことが気になりだし、メールに代わってからは真面目で一生懸命で、不器用なのか、毎回1文しか書かれていない質素なメールだが、俺の事を知りたいんだなとわかるそのメールに、机上の会話の時よりさらに相手の事が気になり、好意を寄せるようになった。
俺の自惚れじゃなければ多分あの人も俺のことが好きなんだと思う。
俺のことを見ているという時点で何か特別な感情があるんだろうし、早くあの人を見付け出して、真意を聞きたい。


いつの間にか始まっていた5時間目に、黒板の板書をノートに書き写しながらチラリとクラスを見渡す。
あの人が誰なのか、一番可能性が高いのは同じクラスのやつ…なんだけど、俺の席は後ろから2番目の窓側。
授業中に俺のことを見える奴なんて限られている。
それに、近い距離にいるクラスメイト達に見られているなら、きっと視線を感じるはず、それなのに感じないということは、このクラスにはあの人はいないということ。

毎回俺はここでつまずき、前に進めていない。
クラスメイトではないと断定できたが、じゃあそれならあの人は俺を何処から見ているんだという話になる。
この時間で堂々と俺を見られるやつ……教師?いやいやありえないだろう。日本史のお爺ちゃん先生が俺のことをそういう意味で好きな訳が無い。
たまに話す奥さんとのノロケ話に、今もラブラブなのはわかっているし、最初の時にあの人は俺と同い年だと言っていた。
じゃあ一体誰なんだよ。

はぁと深いため息をつき、横を向いて、校庭でサッカーをしている奴等を見る。
楽しそうにボールを追いかける姿に、俺も座学じゃなくて身体を動かしたいなと羨ましく思う。
ジャージの色からして同級生かーっとボーッとしていたが、次の瞬間ハッとする。
そしてサッカーをしている奴やコート外にいる奴まで全員に目を配らせ、あるところで視線が止まり、俺の心臓はドクリと高鳴った。
見付けた…

一瞬だけだが確かに目が合い、合った瞬間むこうは自然と視線を逸らし、いつの間にか試合が終わっていたコート内に入った。

俺の顔は無意識に笑顔になり、思わず声が漏れそうになる。
そっか…そっかそっか!あいつだったのか!
ニヤける口元を手で覆い隠し、始まったばかりのあの人が出ている試合に意識を集中させた。

誰だかわかった喜びや嬉しさで、黒板に書かれていた板書を途中から写し忘れてしまっていたと気付いたのは、授業が終わってからだった。




『阿久津有希』
女っぽいその名前に反して阿久津は男前で、男前とは阿久津の事を指すんだなと初めて阿久津を見た時から俺はずっとそう思っていた。
そして阿久津は『泣く子も黙る狂犬』と言われ、周りからは恐れられているらしいが、学校では寡黙な男前で、むしろ阿久津と一緒にいる千崎の方が喧嘩っ早くて俺的に近付きたくない怖いやつだ。


あの時たまたま目が合っただけで、もしかしたらあの人は阿久津じゃないかもしれないという不安から、阿久津とすれ違う時、歩きながらも阿久津の方へと意識を集中させると、阿久津は俺のことを見ていた。
やはりあの視線は阿久津のもので、阿久津があの人なんだとわかり、俺はクスリと笑った。
それからも阿久津が近くにいる時を見計らってメールを送ると、同じタイミングで携帯が震えだし、携帯を取り出した阿久津は少し頬を緩めた。
あの男前でなかなか表情の動かない阿久津の顔を俺が緩ませているんだということや、俺からのメールにすごく愛おしそうな顔をする阿久津に、今までよりさらにさらに俺は阿久津のことを好きになってしまった。
間違いない。やっぱり阿久津があの人なんだ。
あの人が阿久津だとわかった今じゃ、仲良さそうに阿久津と絡む千崎が羨ましくてたまらない。
俺も千崎みたいに、阿久津と仲良くしたい。隣に立ちたい。
『あっくん』と親しげに呼んでみたい。



月曜の5時間は睡眠の時間から推理の時間、そして校庭で体育をしているあっくんにばれないようにこっそりと見る時間になった。
気付いてからは外からの視線が、痛いほど感じる。
多分俺が外を見たら直ぐにあっくんと目が合うと思う。
だけどそれをしないのは、俺があっくんにアプローチされたいから。
見ているだけで何も行動を起こさないあっくんに、俺ばっかあっくんの事が好きで、今すぐにでも会いたいと思っているのは不公平だ。
だから俺はあの人があっくんだということに気付かない振りをして、あっくんからのアプローチを待っている。



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Toあっくん
Sub(non title)
あなたに会ってみたいです
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Fromあっくん
Sub(non title)
ダメです
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Toあっくん
Sub(non title)
どうしてですか?
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Fromあっくん
Sub(non title)
幻滅させてしまうからです
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Toあっくん
Sub(non title)
俺に言いたいこととか無いんですか?
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Toあっくん
Sub(non title)
たくさんありますが、今はダメです
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ちょうど送られてきたメールに思わずため息をつく。
このメールを送った送り主であるあっくんは今、中庭で携帯を握りしめながら木陰で寝転がっている。
それを俺は渡り廊下の窓に頬杖をつきながら見つめる。

このー!
あっくんの意気地なしめ!!!!






解説
あっくんは多くを求めていないので、遠くから見ていられるだけですごく幸せ。
なのでメールを送りあっているだけで満足している。

それに反して郁弥くんは『俺の事好きなんだよね?そうじゃなきゃあんな表情できないよね?いつでも俺は準備OKだよ!!!』状態なのにメールだけで、フラストレーションが溜まってます。

一応郁弥くんが他の奴と仲良くしているとあっくんは嫉妬しています。
負のオーラを纏いながら相手を睨みつけています。
だけどそれだけしかしないので相手には伝わりません。
そして郁弥くんには『強い視線を感じた』程度しか気付いてません。


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