平凡ヒーロー×元いじめられっ子美形
小学校低学年の頃、
僕はよくいじめられていた。

「やーいやーいオカマー。てめぇあそこ付いてねぇんだろ」
「…ひっく、…付い、てる、…もん」
「こんなんで泣くなんて、やっぱこいつ女なんじゃねーの?」
「脱がして確かめてみようぜ」
学校からの帰り道、いつも僕をいじめてる三人組に運悪く捕まり、嫌がる僕を無理矢理河原へと連れてきた。

河原に着くといじめっ子の一人に強めに肩を押され、転ばされた僕の服やランドセルは泥砂で汚れた。
そして数々の言葉の暴力を吐かれ、とうとう我慢出来ず泣いてしまった僕に、追い打ちをかけるように三人がかりで僕のズボンへと手をかけた。

「…やぁっ、やだ、やめっ…て!…やぁ」
泣きながらもイヤイヤと抵抗するが
三対一では全く歯が立たず、必死に動かしていた僕の両手両足を押さえつけられ『もうダメだ』と思い、諦め、目をつぶった瞬間
さっきまで押さえ付けられていた重さが突然消えた。
なんだ?と、確かめるために恐る恐る目を開けて起き上がると、仁王立ちしている背中とさっきまで僕をいじめていた三人が地面に転がっている姿がそこにはあった。

「弱い者いじめしてんじゃねーよ。カッコ悪りぃぞ!これにこりたらもうこいつに手、出すなよ」
そう言った誰かはくるりとこちらを向き、僕に近づいてきた。

「大丈夫か?立てるか?」
「…うん」
差し伸ばされた手に掴まり起き上がると、汚れていた僕の服やランドセルの汚れを軽くはらってくれた。

「もう大丈夫だからな」
ニコリと笑い、背の小さい僕の頭を優しく撫でた。
強くて優しくてカッコイイその姿はまるでヒーローのようで、僕は目をキラキラさせながらお礼を言った。

「お前は確か隣のクラスのやつだよな?俺は浅川和樹」
「僕は…二宮、真琴」
「そっか、マコか…よろしくな。またあいつらに絡まれたり、いじめられでもしたらすぐに俺を呼べよ?飛んで助けに来るから」
それからカズくんは宣言通り、僕がピンチな時にカズくんの名前を呼ぶと、本当にカズくんは僕を助けに来てくれた。

カズくんはあまり頭は良くないけど、持ち前の明るさや優しさ、運動神経の良さで女の子達にはすごくモテた。
だけどカズくんは『気持ちは嬉しいけど、まだ俺はマコや友達と遊んでいる方が楽しいから』と僕達と遊ぶことを優先し、誰かと付き合おうとする様子は全くなかった。

小学生の頃は数度しかカズくんと同じクラスになれなかったが、僕達の友情は中学に上がっても続いた。
カズくんのおかげでもう僕がいじめられることはなくなったが、僕はいじめられる原因である自分の顔がコンプレックスになり、前髪で顔を隠すようになった。
カズくんは『すごく綺麗なのに勿体無い』と言うが、それでも僕は自分が嫌で、顔を隠し、身を縮め、カズくんの後ろにくっつき、周りから見えないようにした。

だけどある日僕がトイレへ行こうとした時、数人の同級生の女の子に捕まり、校舎の裏へと連れてかれた。
またいじめられると思った僕はカズくんを呼ぼうと口を開きかけたが
『いつもいつも浅川くんの後ろにくっついてて気持ち悪いのよ。あんたみたいな暗い奴が浅川くんと一緒にいて良い訳が無いの。
浅川くんは優しいから言わないだけで、あんたのこと本当は凄く迷惑に思ってるわ』という言葉で、今までの数々の事が一気にフラッシュバックし、目の前が真っ暗になった。

どのぐらいの間そうしていたかわからないが、気付けば目の前には息を切らしたカズくんが居て
さっきの女の子達はもう居なかった。

「マコ…いじめられたのか?遅くなってごめん。だけどもう大丈夫だからな」
「…ありがとう、カズくん。……でももう大丈夫だから」
無理矢理口角を上げて笑顔を作る。
女の子達が言うように、僕はいつもいつもカズくんの後ろにピッタリとくっついて隠れる気持ち悪い奴だ。
カズくんは優しいからこんな僕を突き放せず嫌々ながらも付き合ってくれてるのかもしれない。

…カズくんの隣に、僕は相応しくない。

「…今日は体調悪いし、早退する…」
「マコ?…心配だし俺も一緒に帰るよ」
「…来ないで!…もう、僕の事はほっといていいから!!」
カズくんの横を通りすぎ、急ぎ足で鞄を取りに教室へと向かう。
後ろでカズくんが何かを言っていたが、僕は聞こえない振りをした。




家に帰り、布団に包まってひたすら泣いた。
カズくんの隣を僕なんかが立っちゃいけなかったんだ。
人気者のカズくんを僕が一人占めしちゃダメだったんだ。
ごめんなさいカズくん。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
僕が弱いから…一人じゃ何もできないから…だからカズくんに迷惑をかけてしまう。
なら僕は、カズくんが居なくても一人で大丈夫にならなきゃいけない。

包まっていた布団から勢いよく飛び起き、洗面所へと向かう。
鏡には前髪の長い、顔の見えない男が写っている。前髪を束ね持ち上げる。
見えた顔は目が赤く腫れ、とても情けない顔だった。
だがどこか決意した目にようやく自分の気持ちがまとまり、『よし』と一人で声をあげ、財布を持ちまだまだ明るい外へと出掛けた。


次の日学校へ行くとみんなが僕を見てきた。
コソコソとこちらを見ながら何かを言っているが、僕は気にしないようにした。
本音は凄く怖くて仕方ない。
だけどカズくんの隣を立ちたいなら僕は変わらなきゃいけない。




僕を取り巻く環境はあの日以降ガラリと変わった。
小学生の時みたいにもういじめられることはなくなったが、何故か僕は女の子にモテるようになった。
ただ僕は、長い前髪を切るついでに髪型を整えてもらった以外は何もしてないのに、目に見えて女の子達は僕に媚びてきた。
あの日、僕を校舎裏に連れてきた女の子達にも何故か告白された。

そして大きく変わったことは、僕の日常にあの日以降カズくんは居なくなった。
自分勝手だが、カズくんに相応しくなるまで僕はカズくんの隣に立っちゃだめだと決め、僕は何も言わずひたすらカズくんから逃げ回った。

高校は共通の友人にそれとなくカズくんの進路先を聞き、カズくんと同じ場所を受けた。






「真琴ー。また女子達がお前のこと見てんぞ」
「僕なんか見ても、なんも得にならないのにね…不思議」
「…はぁ…お前本気で言ってんのかよ」
隣のクラスと合同の体育の時間は僕の唯一の楽しみだ。

「カズくんカッコいい…」
「浅川なー。あいつ平凡な顔してるけど運動神経いいし、隣のクラスのムードメーカーらしいな」
敵のディフェンスをくぐり抜け、ボールをゴールに向けて投げる姿は昔と変わらずとてもカッコ良く、僕はカズくんから目が離せなくなる。

「今でもカズくんはモテモテだよなー…」
「浅川より真琴の方がモテてるだろうが…」
キッと友人を睨み、『カズくんを愚弄する気?』と言うと何故か呆れた顔をされた。
僕なんかとカズくんを比べていい訳がない。
カズくんは世界一カッコいいんだから。

「ねぇ今の見た?カズくんまた点入れた!はぁ…カッコいいなぁ」
「あーあ。学校の人気者がこんな幼馴染大好き人間だなんて知られたら、絶対みんなガッカリするぞ」
「別に僕はカズくんが居ればいいし」
ぼそりと「意地張って話し掛けれないくせに」と友人が言うが、聞こえない振りをして僕はカズくんのプレイに集中した。


授業が終わり、特に用事もなく
荷物をまとめてもう帰ろうと準備をしていた時。後ろからトントンと軽く肩を叩かれた。
「真琴くん。先生が今日の日直は資料室の片付けしといてって言ってたよ。」
「…わかった」
「真琴くん一人じゃ大変でしょー?美希も手伝ってあげるね」

薄暗くあまり使われてない資料室の片付けを生徒に頼むなんて、その時点でおかしいと気付くべきだった。
資料室に着き、電気を付けようとボタンを探していると後ろからバチッと音がし、その瞬間僕は膝から崩れ落ちた。

「美希ね、真琴くんと絶対付き合いたいの。でも美希が何度も何度も真琴くんに告白しても全然オーケーしてくれないじゃん?だから既成事実作ることにしたの」
あっ!電流弱めのスタンガンだから安心してー と言いながら僕の上に乗り上げ、ネクタイで僕の両手を縛り始めた。
ここから早く逃げなきゃいけないと頭ではわかっているが体が動かず、抵抗もできない。

「やめ…ろ」
「美希と付き合うって言うなら解放してあげてもいいよー」
それは嫌だと頭を横に振ると「ふーん…」と言い、女は僕のズボンに手をかけた。

ピンチの時や負けそうになった時にはいつも頭にカズくんの姿が思い浮かぶ。
今まで必死にカズくんの隣に立てるように、見た目を整え、勉強も運動も人間関係も必死に頑張ってきた。
だけどいつまでたってもカズくんの隣に立てるような僕になれない。
そんな中途半端な僕なのにこんな時ばっかすがるなんてズルいだろうが、思わず口からあの言葉が出てしまう。

「カズ…くん。助けて…」




「呼んだか?」

聞こえた声に驚いて目を見開くとそこには何故かカズくんが居て、僕の上に乗っていた女の子を退かした。

「俺の友達に手出してんじゃねーよ。女だとしても容赦しねぇぞ」
そう言いながらボキボキと指を鳴らすカズくんに、女は苦々しい顔をしながら部屋から出て行った。

危機を脱出しふぅーっと脱力すると、安心したせいかポロリと目から涙が出てきた。
次から次に出てくる涙に驚きながらも、やっと動けるようになった体を持ち上げて手で涙を拭う。

「カズ…くん。…ぅ、あり、が、とう」
「泣くなよ、マコ」
僕の目の前にしゃがみ込むカズくんは、あの時みたいに優しく僕の頭を撫でてくれる。

カズくんはやっぱり僕のヒーローだ。
強くて優しくてカッコよくて、僕がピンチな時には必ず来てくれる。

「…カズくんは、まるでヒーローみたいだね」
「そうだろ?…マコが呼ぶなら俺は何処にでもすぐに駆けつけるよ」
泣いてる僕の涙を指で拭い「マコを守るためにも、これからは一番そばに居なきゃな」と笑うカズくんに僕はハッとする。

「ダメだよカズくん。カズくんの隣に僕は相応しくないから。それにカズくんに迷惑かけちゃうし…」
「………俺はお前が隣に居てくれないと凄く寂しい。あとマコを迷惑に思ったことなんて一度もないから」
「だけど…」
「だけども何も無い。マコにはずっと俺の隣にいて欲しいんだよ」
告白みたいなそんな言葉に、思わず僕の顔は赤くなる。
カズくんにそこまで言われて、カズくんが大好きな僕は逆らえるはずもなく、無言で頷く。

こんな僕でいいのかとまだ不安に思うが、弱い僕にはカズくんが必要なんだとやっと気付けた。

カズくんが再び差し伸ばしてくれた手を、僕はもう離さない。






解説
二人ともまだ恋愛感情ゼロだけど、友達以上恋人未満なヒーローと元いじめられっ子のお話です。

カズくんは理由もわからず突然離れていったマコを寂しく思い、昔と変わっていくマコにもうあの時のマコとは違うんだと高校に入ってからは関わることをやめた。
だけど気付いたらマコを見ていたということが増える。

資料室へ来たのは虫の知らせ。
マコを助けたことでまた友達に戻れた事が嬉しいが、マコが自分にだけ見せてくれる表情に気付き、少しずつ友情から違う感情へと変わっていく。


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