無口不良×平凡
窓際の後ろから2番目のその席は暖かく、月曜の5時間目の授業が行われる時は、いつも眠気との戦いで忙しい。

うとうととしながらも懸命に教師の話に耳を傾け、黒板に書かれた文字をノートに書き写す。
だが気付くといつの間にか授業の終わりを告げる鐘が鳴り、俺のノートを見てみると
ふにゃふにゃした読みにくい字で途中までしか書かれていない。

「あー…悪い、寝ててノート写しきれてなかった。明日でいいからさ、ノート見せてくんね?」
「月曜の5時間目が日本史って辛いもんね。うん、いいよ」
昼食を食べた後の授業。しかも科目は日本史。
授業中誰も当てないし、音読もさせない。
ただひたすら教師の話を聞き、板書をノートに写すだけの簡単な作業。
あまり勉強が好きじゃない俺にとってその時間のその科目は最悪な組み合わせで、今まで一度もちゃんと起きていられたことがない。
違う日の日本史なら起きていられるし、月曜以外の5時間目も起きていられる。
だけどこの、月曜日の5時間目は俺にとって魔の時間だった。




「お前また寝てたろ?」
「……もうさぁ、俺がいけないんじゃなくて、5時間目に日本史が入ってる時間割がいけないんじゃないかと思ってきた」
「それ何回も聞いたから…。はぁ、俺はもうお前にノート貸さないからな。」
「それは大丈夫。今回は後ろの席の吉田さんに借りるから」
借りてんじゃねーよ!なんのために俺がノート貸さない言ってると思ってんだよ。もう少し危機感持って、ちゃんと授業を受けろ
と騒ぐ友達に適当に返事を返す。

俺も別に寝たくて寝てるわけでも、授業が嫌で寝てるんじゃない。
ただ自然の摂理で、お腹いっぱいなのに特に何もせず、机に座ってるだけの授業は眠気に誘われ、勝てないというだけの話だ。





あぁ…もう、無理。すげぇ眠い…
やっぱり月曜の5時間目はだめだって…眠すぎて意識が飛びそう

待っていたシャーペンを置き、潔く机に両腕を乗せて顔をうずめる。
今回も無理だったなと思いながら、体育をやっている校庭に目を向けようとした時、光の反射で机の端に何か書かれているのに気付いた。
なんだ?と興味を持ち、起き上がってちょうど文字が見えるように態勢を変える。
「寝ない…で、くだ…さい?…なんだこりゃ」

見えるか見えないかの位置にあるその文字に、誰がこんなこと書いたんだ?と頭にハテナを浮かべる。
綺麗なその文字と意味が気になり眠気はどこかへ吹き飛び、結局初めて月曜の5時間目を寝ないで過ごせた。
友達には『やれば出来んじゃん』と褒められたが、全くもって嬉しくない。
それより俺はあれの差出人が気になって仕方ない。


次の日、もう一度昨日の文字を確認しようと机を見て俺は目を見開いた。
「今回は寝なかったですね…って……え?」
なんで知ってるんだよ…
どこかから俺を見てたってことかよ?ってことはこの差出人は同じクラスのやつ…?
はぁとため息をつき、謎が深まった差出人不明のその文字を指でなぞった。



「あなたは誰ですか?」『秘密です』
「どこから見てるんですか?」『内緒です』
「同い年ですか?」『そうです』
「女ですか?男ですか?」『どちらだと思いますか?』
「男だと思います。当たりですか?」『ノーコメントです』
「なんで俺の事見てるんですか?」『気になったからです』
「会いたいです」『ダメです』

何度も文字のやりとりをしたが未だに相手が誰だかはわかっていない。
だけどこの文字のやりとりをしてから俺は月曜の5時間目を寝なくなった。
この差出人は決まって月曜の俺が帰ったあとに文字を書く。
それを知ってからは、このあと俺の席に来るだろうその人を想ってドキドキで眠気に襲われなくなった。


「あなたの事がもっと知りたいです」
そう書いた俺への返事がどう返ってくるのか、今から明日が楽しみでたまらない。











「あっくんまたあの人見てるの?」
「うるせぇ…こっち来んな」
「えー…もぉあっくんってばひどーい」
茶化す声を聞き流しながら真っ直ぐある場所を見る。

今日もあんなに頭が揺れて…多分そろそろ寝るな
…あぁほら、寝やがった…

「あっくーん?そのニヤニヤ顔しまって授業に集中しよ」
「……」
顔を手で押さえ、無意識に緩んでいた顔を締めなおし、腰を上げる。



月曜日5時間目の体育。
それは至極だるくてめんどくさい。
昼飯を食べた後の運動なんて正直やってらんねぇとそう思いながらも適当に受けていた。
だけどいつしかその月曜の5時間目を俺は楽しみにしていた。

A棟校舎の2階、右から6個目の窓から見えるあいつの姿。
初めてあいつを見た日も、あいつはグラグラと頭を大きく揺らし、眠気と戦っていた。
結局眠ってしまったあいつに俺は『あーあ寝ちまった…』とガッカリした。
もう少しあいつの姿を見ていたかった。
そう思う自分を不思議に思ったが、なぜそう思ったのかその時はわからず、
だけど次の週再びあいつの姿を見て、俺の滅多に崩れない顔は緩んだ。


「あっくんはさーあの人が相当好きだよね」
「…?」
「アピールとかしてるの?」
「…いや、名前も知らねぇ」
体育座りで俺の隣であいつを見ていた友人は『はああああ!?』と驚き、俺を見てくる。

「うっそ…あの、泣く子も黙る狂犬と言われてるあっくんが、好きな人の名前すら聞けてないの?」
「うるせぇ…」
「…まじかよ。…んとさ、たぶんあそこの窓は5組だと思うんよ。だから放課後、あの人の名前調べに行こうよ」
そう言う友人にうんともすんとも返事をしなかったのは、少なからず俺もあいつの名前を知りたかったから



「ほほーあの人の名前は松田郁弥くんですってよ、あっくん!」
いつも窓の外から見ている席に向かい、誰も座っていないその席を撫でてからそっと椅子を引き、座ってみる。

あいつはいつもこんな景色を見て授業を受けてるのか

何とも言えない気持ちが湧き上がり、自分でも顔がニヤけるのがわかる。
嬉しい。今俺はあいつと一緒の景色が見えている。

「あっくん。名前もわかったし帰ろっか」
「…おう」
友人が教室から出て行くのを見届け、自分も帰ろうと立ち上がった時、ガタンと机に足をぶつけシャーペンが落ちてしまった。
そのシャーペンを拾い上げ、ちょっとした好奇心と期待で見えるか見えないかの位置に文字を書いた。
『寝ないでください』

返事が来るかはあまり期待してない。
だけどいつかこの言葉に気付いてくれればいいなとシャーペンを机の中にしまった。




「俺もあなたの事が知りたいです」『よければメアド交換しませんか?あなたともっとお話ししたいです。×××××@****』






解説
最初は不審に思っていたその文字をいつしか楽しみにしている平凡くんと
気持ちを自覚しているが中々踏み出せていなかった不良くんのお話。

このあとメールし合って仲を深めるが、不良くんが頑なに『会わない』と言うので平凡くんがぐいぐい攻めます。
平凡くんは最初の方ですでに文字の相手は男だとわかっています。


最初に平凡くんからの返事が来たとき、きっと不良くんは無言でガッツポーズしていたと思います。


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