ヒビリヘタレ×流され包容
未だに俺は浩輔との関係を表す、最良の言葉が見つからない。



小学校低学年の時に浩輔が俺の家の隣に引っ越して来てから中学に上がるまで、確かに俺達は自他ともに認める『親友』という関係だった。

だけど親友と呼べなくなったのは
何時ものように放課後、浩輔の家で遊んでいる時
浩輔が突然赤い顔をして『キ、キスってどんな、か、感じなのかな…?…、してみて、いい?』と言いだした辺りからおかしくなったのかもしれない。

突然そんなことを言う浩輔に驚き、『なに言ってんだよ。キスは普通、異性同士でするもんだろ』と言おうとしたが、浩輔の顔を見て俺は口を開くことができなかった。
さっきまで赤い顔していた浩輔の顔は青白く何か困惑したような顔をしていた。

「浩輔?大丈夫か?体調悪いのか?」
「えっ……?あっ、や、大丈夫。…あの、ごめん。さっきの忘れて、本当にごめんなさい」
もっと顔を青白くさせて謝る浩輔に俺は思わず『…キスさぁ、してみよっか』と言ってしまった。
別にしたかった訳じゃないが、ただ浩輔の暗い顔を見ていられなかった。

俺の発言を聞いた浩輔は目を大きく見開かせ『本当に…、本当にいいの!?』と先ほどのように顔を赤くしていたので内心ホッとため息をついた。
『ん。しようよ』と返事をし、お互いファーストキス同士で不慣れながらも唇を重ね合わせた。
浩輔の唇は薄いけれど柔らかく、男同士だということも忘れて少しドキドキした。

その日から『ヒロ、キスしたい…』『…いいよ』と何も不思議に思わず俺達はキスするようになった。
だからそのキスにいつの間にか舌まで入ってくるようになったのも自然なことだった。



浩輔と同じ高校に入ってすぐ、またあの時みたいに浩輔は赤い顔をして『えっち…してみたい』と言った。
とうとう来たこの台詞に俺はちょっと待っててと告げ、浩輔を部屋に待たせた。

高校に入るまでに俺達の関係はよりおかしくなっていた。
キスをはじめ、そのあとも『ヒロの裸が見たい』『ヒロの乳首に触りたい』と色んな事を浩輔に言われ続け、そのたびに俺は浩輔の暗い顔を見ていられなくてそれを了承した。
実はもう俺のアナルも浩輔に開発されている。
だからいつかこの日が来るだろうと予想していた。

風呂場で浣腸をし、お腹を空っぽにしてから浩輔の待つ部屋に戻る。



浩輔の発言がおかしいのも、俺がそれに断れないのもおかしいともわかっている。
だけど浩輔の嬉しそうな顔を見ると『まぁいいか』という気になってしまうから仕方ない。
浩輔以外の男と、異性とするようなこんな行為をするなんて死んでも嫌だが浩輔なら何故か許せてしまう。
不思議なものだ。

俺達の関係に名前がつけられないまま今日も俺は浩輔の言うことを断れず了承してしまう。











自分のヘタレ具合にはため息をつかざるをえない。

両親の都合で俺は小学校低学年の頃に引っ越しをし、ヒロと出会った。
隣の家に住むヒロは他所から来た俺にもとても優しく、すぐに俺達は友達になった。
新しい小学校ではヒロ経由でたくさんの友達が出来た。
だけど俺はヒロが一緒に居てくれるだけで十分だった。
その頃に俺はヒロへの気持ちが友達に対して持つ感情とは違うと自覚しはじめた。

だから中学生時代にヒロにキスしていいかと聞いた時は、正直俺の限界がきていた。

何度もヒロが寝ている時にこっそり起こさないように軽く触っていたが、それも物足りなくなりあんな事を言ってしまった。
言ったはいいものの、ヒロの驚いた表情や俺の理性も戻り酷く後悔した。
これでもうヒロとは友達ではいられなくなってしまったかもしれない…
言わなきゃよかったと、血の気が引き頭が真っ白になりながら『さっきのは忘れて』と言ったが俺の予想に反してヒロは『してみよっか』と言い、俺は驚きながらも
まだヒロと一緒にいれるかもしれないと安堵した。



あの日から気付けば20年も経ち、俺は見た目も中身も大人になったはずなのに、未だにヒロへこの想いを告げれていない。
三十路も過ぎたおっさんが小学生の頃から今も一途に一人の相手にずっと恋してるなんて、周りから見れば漫画のような綺麗な恋物語だが
実際は告白してヒロに嫌われるのが怖い、ただのビビリなヘタレなだけ。

それにキスもそれ以上も恋人という関係でもないのにしているのは、到底綺麗な恋物語とは言えない。





今日もいつものように宅飲みした後ヒロと身体を重ね、疲れたヒロは俺のベッドで寝ている。
あの頃と比べれば格段にヒロとの触れ合いは増えたし、俺のしたかったことは出来ていると思う。
だけど俺達の関係は名前のつけられない不確かなもので、いつこの関係が崩れてしまってもおかしくない。
俺はそれが怖くて仕方ない。

もしかしたら俺が知らないだけでヒロには俺とするような事を他にもする相手がいるかもしれない。
実はもうすでに恋人がいるのかもしれない。
考え出すと全てが不安に変わり俺の気持ちを重くする。

「ごめんな。好きになっちゃって…」
眠っているヒロの髪に軽く触わろうと手を延ばすが、すんでのところで手を掴まれた。

「ヒ、ロ…?どうしたの?起きちゃった?」
目を開きこちらを見るヒロとガッチリ目が合う。
俺の手を掴み、身体を起こすヒロを見ながら
さっきの聞かれちゃったかな?と俺は内心焦る。

「…やっと聞けた。」
「え?何が…?」
「『好き』って言葉」
やっぱり聞かれちゃってたかと焦りながらも、どう言い訳しようかと考えるが何も浮かばない。

「この言葉を俺はずっと聞きたかった。…この言葉を聞けてよかった。俺も浩輔の事好き」
そう言いヒロは俺の手を離し、またベッドに身体を倒して眠った。

「え?……え?…はぁ?」
眠ってしまったヒロを見ながら驚きの声を出すがもう眠ってしまったヒロは返事をしてくれない。
落ち着くためにキッチンへ行き、水を一杯飲み心を落ち着かせ、頭の中を整理する。

理解した途端俺は顔を真っ赤にし、年甲斐もなくはしゃいで喜んだ。


今日はもう眠れそうにないな。
そうだ、朝起きたヒロに喜んでもらえるような手の込んだ朝食でも作ろう。
今日は記念日だ。






解説
ヒロくんは多分身体重ねるようになった辺りから自分の気持ちを自覚してたと思います。
元々『男同士でこんなのおかしいとは思うけど、別に嫌じゃないんだよな。浩輔以外なら無理だけど浩輔ならなんか大丈夫』と思ってた。
9割9分浩輔も自分のこと好きだとわかってたけど残りの1分の不安で自分からは言えなかった。
思春期特有の好奇心からズルズルと今は都合の良い性処理なのかな?と考えていた。
だから『好き』という言葉を聞けて安心し、深い眠りにつけました。


二人とも32歳。
なのに次の日からお互い中学生かと言いたくなるほど甘酸っぱく、清いお付き合いが始まる。
すでにやることヤッてる三十路なのに…


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