先程までの晴天は一変。
西から流れてきた暗雲は瞬く間に青を塗り潰し、めのうは今にも泣き出しそうな空を見上げた。
「最悪。雨降るなんて言ってなかったでしょうが。」
悪態をつきながら両手にぶら下げた買物袋を持ち直し、万事屋への道程を急ぐ。
雨に降られる前に帰りたかった。焦る気持ちが、普段は通らない細い路地裏へとめのうを誘い込む。
人気のない薄暗い道。
刻一刻と暗さを増す空を睨みながら幾つ目かの小路を曲がった時、勢いよく何かにぶつかって声を上げた。
「うわ!ごめ、んなさ…」
反射的に口をついて出た謝罪の言葉を言い終えるより早く、目に飛び込んでくる極彩色の着物。
「お前、銀時んとこのだろ。」
降り注いだ予想通りの声音にゆっくりと視線を上げる。深く被った網傘の下から覗いた相手の顔を見て、戦慄した。
「確か、めのうって言ったか。」
忘れる筈がない。過激派の攘夷浪士集団、鬼兵隊を率いる頭目。
「高杉…晋助…」
不意に高杉が此方に手を伸ばす。思わず身構えためのうの頬を掠め、とん、と顔の横につかれた手。そこで初めて、いつの間にか自分が壁際に追い込まれていることに気づいた。
「…え?」
「まさかただで帰れると思ってる訳じゃあるめェ?」
空いた片一方の手がめのうの顎を捉えた。くいと上を向かされ、片目を包帯に覆われた端正な顔と間近で対面する。
あまりにも自然に距離を詰められていた。両手に抱えていた荷物を取り落とす。
「あ、の…。帰して、下さい。」
狼狽えるめのうに、高杉が笑いかける。
「さぁて、どうすっかな。ここで俺がお前を壊したら、銀時はどんな顔するだろうな?」
刻まれた笑みが濃くなった。狂気じみた、けれど妖艶で思わず惹き付けられる笑み。
ぽつ、ぽつ。
地面を叩き始めた雨粒は瞬く間に強くなり、風景に靄を掛けていく。
遮断された世界に二人。逃げ場はない。
20120120
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