「皆水の巫女の封印を解く…?本気か、レイジングブル。」

「あぁ。」

半分に欠けた月が見下ろす森の中で、突然明かされた第5隊:フィラメントの計画を前にめのうは戸惑いを隠せずにいた。

「皆水の封印の解除は、計画の最終段階だと知らない訳ではないだろう?」

「勿論、知ってるさ。」

「だったら何故…」

レイジングブル…ホンダ・ジョージとは、所謂幼馴染みという関係だった。小さな頃からずっと、ベニオやテツヤと、いつも四人で一緒にいて、きっといつまでも変わることがないと思っていたその関係が変わってしまったのは、一体いつの事だったろうか。

綺羅星十字団という組織。それが四人を、…否、正確に言えばめのう一人を、彼ら三人から引き離してしまった。

「なあ、レイジングブル。何をそんなに焦ってる…?」

「別に、焦ってなんてない。出来ると思ったからやる。それだけだ。」

仮面に隠されたその表情を窺い知ることは出来ない。ただ、きっぱりと言い放たれた言葉からは、それが嘘や冗談の類いではないことが理解出来た。

「私は…、賛成しかねる。」

「止めても無駄だぜ?」

「だが、もし失敗すれば君は…」

スタードライバーの資格を剥奪され、最悪、除隊処分になる可能性だってある。成功する保証もない。第一、そんな独断専行を、他の隊の代表達が許すとは思えない。

「まぁ、そう言うことだ。…お前には話しておきたかった。」

決意は固い。まだ何か言いたげなめのうを振り切り、彼は背を向ける。

「待って……ジョージ!」

“ジョージ”。仮面をつけた状態でこの名を呼んだのは、これが初めてだった。けれども彼は振り返らない。振り返ってはくれない。綺羅星十字団の一員としてではなく、めのう個人としての思いを乗せた言葉は、容易く弾かれてしまう。

遠ざかっていく背中。いつの間にか開いてしまった距離。

彼女の声を背に、彼は歩き出した。これは単なる御家再興の為の戦いではないのだ。彼個人の戦い。そう、シルシを失った一族の生まれである彼が、シルシを持つ家系に生まれた彼女と、対等な立場に立つ為の――





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