昼休みを告げるチャイムが鳴り終えると、めのうは巾着袋を片手に席を立った。軽い足取りで階段を上り、屋上に出る。透き通るように澄んだ青空と、穏やかに凪いだ風。一言で表すなら“絶好の行楽日和”というやつだ。
昇降口の裏手に回り、めのうは壁に据え付けられた梯子に手を掛けた。屋上から更に一段高くなった場所を目指す。
「あれ、ジョージ。」
空が少し近くなる。普段人気のないそこに、今日は珍しく先客がいた。
「めのう?何しに来たんだ?」
ごろりと仰向けに寝そべったジョージは、閉じていた目を薄らと開いてこちらに視線を寄越した。
「何しにって、お昼食べに。ここ私のお気に入りの場所なの。」
「へえ。」
さして興味もなさそうに答えると、ジョージは再び目蓋を閉じる。彼の回りにはお弁当箱らしき物も、購買の袋も見当たらなかった。これから何かを食べる雰囲気も、既に何かを食べた気配もない。めのうは首を傾げる。
「お昼、食べないの?」
「減量中だ。」
「何で?」
「来週試合なんだよ。」
「何の?」
「ボクシングに決まってんだろうが。余計な体力使わせんなよ、腹が減る…」
「ふうん、大変だね。」
めのうはジョージの隣に腰を下ろすと、そんなことなど御構い無し、とばかりにお弁当を開いて食べ始めた。
「………おいめのう。」
「む?」
甘い卵焼きを口一杯に頬張ったまま隣を見ると、眉間に少し皺を寄せてジョージがこちらを見ている。
「これは何の拷問だ?」
「ジョージの忍耐力を鍛えるお手伝い。」
「お前な。」
チクチク刺さる視線を無視して箸を進めていると、突然ジョージが勢いよく体を起こした。気にしないフリをして黙々と口を動かしていると、不意にジョージが膝の上に乗せたお弁当箱を覗き込んでくる。
「それ、手作りか?」
「うん。美味しそうでしょ。」
「味見。」
「残念、ジョージは減量中だから駄目。」
「何だよ。いいだろ少しくらい。」
そう言いながらも、減量中は食事管理を徹底しているのか、ジョージはすんなりと引き下がり、またバタリと仰向けに倒れ込んだ。
「あー…………腹減った……」
ちらりと横目でジョージを見る。自分なんてダイエットと称してご飯の量を少し減らしただけで相当辛いのに、健全な食べ盛りの男子学生が減量で昼ご飯を全く抜くというのは一体どれくらいの辛さなのだろう。皆目検討もつかない。
「ねぇ。」
「あ?」
「試合に勝てたら、お弁当、作ってきてあげよっか。」
勝てたら、なんて、素直になれない私の精一杯の譲歩だ。本心ではジョージが負けるだなんて微塵も思っていない。
「言ったな、めのう。覚えとけよ。」
にやりと口角を上げ、自信に満ちた笑みを浮かべるジョージに目を奪われる。包み隠した淡い想いに、彼は気づいているだろうか。
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