「オニキス、寝不足?」
まだ朝日が昇ったばかりだというのに、既に二桁目に達した大欠伸。眠そうに目を擦るオニキスの顔を覗き込んでネーナが尋ねる。
「あ、うん…まぁ…」
曖昧な答えを返し、オニキスは小さく苦笑した。まさか“つい一時間程前までお兄さんとベッドの上で肌を重ねていました”なんて、口が裂けても言えない。いくら久々だったとはいえ夜通しは少し調子に乗り過ぎたかもしれないと、倦怠感の残る腰に悟られないよう手を当てる。
「ちゃんと寝なきゃ駄目よ。いつミッションが入るかわかんないんだから…あ、ヨハン兄!」
理由を深く追求しない彼女に内心安堵の息を吐くと、ネーナがパッと顔を上げた。釣られて顔を上げると、一睡もしていないことなどまるで感じさせない様子の彼が目に入る。
「早いな、二人共。」
そんな何気ないに一言さえ自分の名を呼ぶ時の甘い響きを感じ、ふしだらな思考に思わず戸惑う。
「お…、おはよう…。」
シャワーで洗い流した筈なのに、長かった夜の記憶をまだしっかりと身体が覚えていて再び芯に熱が灯った。
「おはよう、オニキス。」
目が合うと深い灰色の瞳は穏やかに笑い、何だか気まずくなってオニキスは視線を泳がせる。そんな彼女の様子に、ヨハンは微かに頬を緩ませた。
「ネーナ、ミハエルはまだ寝ているのか?」
「たぶんね。」
「悪いが起こしてきてやってくれ。」
「了解!」
顔の前でブイサインを作り軽やかに部屋を出ていくネーナ。その後ろ姿を見送って、パタパタと足音が遠ざかるのを待ってから、ヨハンは椅子に腰掛けたオニキスの傍らに足を進めた。
「無理をさせたな。すまなかった。」
長身を屈め、労るようにオニキスの頬に手を添える。
「いいの。その、嬉しかった、から…」
俯き加減にそう呟くと、掬うように顎に手が掛かり、そのまま吸い寄せられるように唇が重なった。いつもより幾分か浅いものの、感触を残すには十分なその口付けに惚けていると、唇が離れ首元に顔を埋められる。同時に走った甘い痛みに、オニキスはびくりと肩を強ばらせた。
「…あっ!?…ヨ…、ヨハン!」
「何だ?」
「…っ。」
顔を赤らめて首筋を押さえるオニキスに、ヨハンはしたり顔でどこか満足そうに微笑み掛けるのだった。
LACK OF SLEEP眠るより、貴方と。
20080611
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