約束の時間より少し早く待合わせ場所に着くと、彼女は既にそこにいて、通りに面した店先のショーウィンドウを何やら真剣に覗き込んでいるようだった。

合同軍事演習後の対面で互いに相容れない考えを持っていることがわかったプトレマイオス側の面々とトリニティ。
表面上袂を別つ形になっている以上堂々と会うのは難しく、こうして月に数度、買い出しという名目で街に出掛けて落ち合うというのが現状での精一杯だ。

専ら必要な物を一緒に買って回り、それが終われば別れるだけという何とも味気ない密会だったが、それでも全く会えないよりはずっといい。

「オニキス。」

「わ!」

後ろから声を掛けると、オニキスは小さく声を上げて振り向き、直ぐにふわりと表情を和ませた。釣られて自然と頬が緩み、ヨハンも穏やかに微笑みを返す。

「久しぶり、ヨハン。」

「あぁ。変わりは無いか?」

「見ての通りよ。そっちは相変わらず派手にやってるみたいね。この前も非難ごうごうだったわよ?」

そう言って肩を竦めて笑うオニキス。自分達のやり口が気に食わないらしい他のマイスターと違い、彼女の言葉には刺が無い。少なからず目的の為なら犠牲を厭わないという姿勢への理解も持ち合わせているらしく、オニキスの口から批判的な意見を聞いたことは一度もなかった。

「私達は命令に従っているだけだ。戦争根絶という本懐を遂げる為にな。」

「知ってる。お疲れ様。」

とん、と身体を預けてきたオニキスの肩に腕を回して、柔らかな髪に指を絡ませ軽く口付ける。そしてふと先程まで彼女が眺めていたショーウィンドウに目を向けた。

「何か欲しい物でもあったのか?」

視線の先に並んでいたのは、色鮮やかな宝石の数々。あまり飾り気の無いオニキスでも、やはりこういった物に興味があるのかと少し新鮮味を覚える。

「え?あ…ううん。ただ、綺麗だなって。」

隣を見下ろすと、オニキスは慌てて首を横に振り、バツが悪そうに頬を染めた。我儘な傾向のある実妹なら、こんなことを言えば直ぐにあれが欲しいこれも欲しいと調子に乗り始めるに違いない。

「オニキス、君は遠慮をし過ぎだ。」

これが普通の反応なのだろうが、物足りなさを感じないと言えば嘘になる。

「え?」

「あのネックレスを見ていたんだろう?」

ヨハンの言葉に、オニキスは目を丸くした。確かに、見ていたのは彼が指差したネックレスだ。どうしてわかったのだろうと彼を見上げると、灰色の瞳にそれくらいわかると笑って返される。

「贈らせてくれないか?きっと君によく似合う。」

「そんな、悪いわ。高価な物だし…」

歯切れ悪く断ろうとするオニキスに、ヨハンは苦笑を浮かべた。たまにしか会えない恋人を何かしら喜ばせてやりたいと常々思うのだが、控え目な彼女は決して自分から何かを欲したりはしない。

無理強いして要らない物を押し付ける気はない。だが、本当に欲しい物があったのなら。

「もう少し、甘えてくれていい。」

耳元でそう囁くと、一瞬の逡巡の後、オニキスは小さく頷いた。





たまには少し儘を











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