休日の雑踏の中、噴水広場に所在なさ気に立っているオニキスの周りを、三つの人影が取り囲んでいた。暇な人間というのは何処にでも沸いて出るらしく、先程から執拗に絡んでくる男達をうんざりと一瞥する。


「ねぇねぇ彼女、一人?」


「こんな所で暇してないでさぁ、俺らと遊ばねぇ?」


「悪いけど、私人を待ってるから。他当たってくれない?」


あからさまな嫌悪を滲ませた表情で拒絶するが、男達は下卑た笑みを浮かべながらしつこくまとわりついてくる。どうやら“日本語”が通じない部類の人間らしいことを悟り、オニキスは早々に相手をするのを止めた。


「何、無視?無視しちゃうワケ?」


逸らした視線の先に回り込まれ、安っぽいナンパが延々と続けられる。徹底的に無視を決め込もうとするその態度に痺れを切らしたのか、群れた男の中の一人が強引にオニキスの腕を引っ張った。


「いいじゃん、ちょっとくらいさぁ、付き合ってよ。」


「やだ、ちょっと…!離して!」


「そうそう、俺らといた方が絶対楽しいって。」


「この…っいい加減に…!」


ぐいぐいと引っ張られながら声を荒げると、その全てを言い切る前に、背後から不機嫌そうな低音が聞こえた。


「おい。」


男達は一斉に振り返り、突然現れた第三者をね目つけるようにガンを飛ばす。


「誰に断って人様の女に手ェ出してやがんだ、あァ?」


「ハレルヤ!」


オニキスはほっと胸を撫で下ろした。

筋肉質な長身の体躯に、好戦的な金色の瞳。額に薄らと青筋を浮かべながら、ハレルヤがこちらを睨み付けていた。


「ンだよ、てめぇ。」


「見てわかんねぇのか?顔だけじゃなくて頭もカスだなてめぇら。」


「何だと!?」


容赦の無い物言いに、男達が顔色を変えた。そんなことなどお構いなしに、ハレルヤは嘲笑を浮かべて言葉を続ける。


「本当のことだろうが。とっととその小汚ぇ手離して失せろカス。…殺すぞ。」


不機嫌そうに細められた金色が凄みを増した。ありありと殺意を滲ませたその声音は、瞬時にその場の雰囲気を抑圧する。

物言いたげに開いた口からチ、と舌打ちを溢し、男達は主主雑多な悪態を飛ばしながら踵を返し走り去っていった。


「ありがと、ハレルヤ…」


「だいたいお前もお前だ。へらへら呑気に絡まれやがって。」


「いたっ。」


ハレルヤの方に駆け寄ると、見事に額を指で弾かれる。


「けど別に何にもされなかったし。あ…ちょっと腕掴まれたけど、ハレルヤが助けに来てくれたし…」


一歩間違えば連れて行かれていたかもしれない状況だったというのに、大して危機感も感じず、万事問題は無かったとでも言いたげなオニキスの様子に、ハレルヤは盛大に溜息をついた。


「…ったく、帰んぞ。」


「あ、え?帰るって…買い物は?」


「予定変更だ。どうやら自分が誰のモノかってことを今一つ理解出来てねぇらしいからなァ?」


「…ん…ぅ!?」


隣を見上げた途端、公衆の面前で見せ付けるような深い口付けを贈られる。人目も気にせず口内を犯され、オニキスはその強行に驚いて強く目を閉じた。


「…は…ハレルヤ…?」


ハレルヤは惚けた瞳で自分を見上げるオニキスの腰をぐい、と引き寄せる。


「俺が教えてやるよ。」





所有者の

この身体に…徹底的に、な。











20090219



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