片想いだということは知っていた。だからアレルヤがマリーを連れて帰って来た時も、ただ他人事のように、似合いの二人だと納得するだけだった。

聞けば二人は超人機関にいた頃からの知り合いで、私の入り込む余地なんて最初から無かったのだ。


想いを告げなくてよかったという気持ちと、いっそ四年前に告白してフラれておけば、こんなに落ち込むことも、こんなにマリーに嫉妬することもなかったかもしれないという気持ちが頭の中で交錯する。

「………情けない。」

自嘲気味な嗤い声が静寂に呑まれて消えた。

たかが恋を一つ失っただけだ。そう割り切ろうと思ってみても、沈んだ気持ちはそう簡単には立ち直らない。


重苦しい溜息をひとつ。

その時、突然展望室の扉が開いた。

「…アレルヤ……?」

立っていた人物の姿に一瞬身体を強ばらせ、直ぐに違和感に気づく。柔和で暖かみのあるそれではなく、攻撃的で研ぎ澄まされた雰囲気。

「うそ……、ハレルヤ…?」

「…よぉ。久しぶりだな、オニキス。」

言い当てるとハレルヤは満足そうに口角を吊り上げた。

「何…で…?四年前に、消えたって…」

それはアレルヤ自身から聞いたことだった。我が目を疑い、オニキスはただ茫然とハレルヤを見上げる。

「あァ?何だよ、くたばってた方がよかったのか?」

見下したような喋り方も、射貫くような眼差しも、ハレルヤ以外の何者でもない。立ち尽くすオニキスを余所に、ハレルヤは展望室に足を踏み入れると彼女の隣に並んで立った。

「……生きてたんだね…。」

「まぁな。」

「アレルヤは?」

「まだ気づいてねぇだろ。」

「……マリーと、一緒にいなくていいの?」

何となく気まずくなり、逸らした視線をガラスの向こうの星空に戻す。重々しい気持ちで疑問を投げ掛けるが、返ってきたハレルヤの答えに、オニキスは微かに眉を寄せた。

「あいつはアレルヤの女だろ?俺には関係ねぇな。」

確かに、同一人物であるとは言え人格的には別個の存在であるハレルヤが、アレルヤと同じようにマリーに好意を寄せるとは限らないのかもしれないが。

「…関係ないって……」

「何だよ、あいつに女が出来てご傷心か?」

「……っ、悪かったわね!」

一瞬で頬を朱に染め、声を荒げる。そんなオニキスを見て、図星かよ、とハレルヤは小さく笑った。そして唐突に口を開く。

「俺は昔から結構おまえのこと気に入ってたけどな。」

「………それは…どうも。」

思ってもいなかった言葉を掛けられ、驚くも憮然とした表情は崩さないまま答えると。

「だからさ、俺にしとけよ。」

「…何それ。冗談にしては笑えないわ。」

「本気だぜ?」

不意に真剣な色を帯びた声音に顔を上げる。と、顎を掬われ急速に距離が近づいた。

直ぐ傍にある二色の瞳から目が逸らせなくなる。彼が何をしようとしているか、何となく察しがついた。慌てて身体を引き剥がそうとするが、いつの間にか腰に回された手がそれを阻む。

「…ハレルヤ!?待っ………ん……」

反射的に目を閉じて、奪い取るような乱暴な口付けを受け入れた。舌先が口内を蹂躙し、次第に身体から力が抜けていく。

「…駄、目……マリーが………」

「知らねぇな。“俺”が欲しいのは、オニキス……おまえだ。」

うわごとのように、辛うじて紡いだ制止の言葉を、甘い声音が遮った。離れていた唇は直ぐに再び重なり合う。

しかし、もう抵抗はしなかった。





慰撫と云う名の

慰めに縋る。それは許されないことでしょうか。











20081219



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