緊急アラートが鳴り響いた。不意に艦内が騒がしくなり、マイスター及びクルーに召集が掛かる。


―…敵襲。


その二文字がぐるぐると頭を廻り、言い様のない恐怖心が背筋を這い上る。多くの仲間を失った四年前の出来事は、今だにオニキスを苛んでいた。

早くブリッジに行かないと。気持ちとは裏腹に、足は前へ進むことを拒む。


また誰かを失うことになったら。もし、自分が命を落とすことになったら。

無意識に体が竦んだ。そんなことは覚悟の上でここに残ったのではなかったか。それが嫌ならあの時点で組織を抜けてしまえばよかったのだ。それをしなかったのは。


「大丈夫か?オニキス。」

「あ、ティエリア…?」


パイロットスーツに着替え、格納庫に向かっていたティエリアがオニキスに気づいて足を止めた。


「顔色が悪いな…」


無重力下でふわりとオニキスの前に降り立つと、ティエリアは少し体を屈めてオニキスの顔を覗き見る。


「平気よ、大丈夫。」


自分に言い聞かせるように繰り返すが、微かに震える肩が彼女の本心を物語っていた。ティエリアは朱い眼を細め、そっとオニキスの腕を引く。


「君は僕が護る。心配しなくていい。」


その言葉に耳を傾ける。胸元に頭を預け、スーツ越しに伝わる体温を肌で感じる。それだけで、波立っていた気持ちが凪いでいく。


「…うん。私も、ティエリアを護るよ。」

「心強いな。」


ティエリアが微笑んだ。

ガンダムマイスターとして彼にしか出来ないことがあるように、プトレマイオスのクルーとして自分しか出来ないことがある。

そうだ。失う恐さから逃げて一体どうする。私は失わない為に、ここにいることを選んだのだ。それを思い出す。

心に一本芯が通ったような気分だった。抱擁を解き、オニキスはティエリアを見上げる。


「気を付けて、ティエリア。」

「あぁ、わかっている。」


成すべきことを成す為に。そして、護るべき者を自らの手で護り抜く為に。







視線を交わし、二人はそれぞれの持ち場に向かって歩き出した。











20081219



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