「待って、ティエリア。」
後ろから呼び止められ、移動装置に伸ばした手を止める。
「また君か。何の用だ。」
自分より一回り小柄なオニキスを、ティエリアは眉を寄せてさも迷惑そうに見下ろした。だがそんな邪険な対応にも、オニキスは全く動じた様子もなく言葉を続ける。
「暇ならシュミレーションの相手をしてほしいんだけど。」
「断る。何故俺が付き合わなければならない。」
「何故って、今トレミーにいる私以外のガンダムマイスターはティエリアだけでしょ?」
バッサリと斬って捨てるようなティエリアの言葉に、オニキスは頬に手を当てて首を傾げた。そんな何気ないしぐさに一瞬目を奪われて、それを否定するかのようにティエリアはオニキスから視線を引き剥がす。
「そういう事を言ってるんじゃない。コンピュータシステムと対戦すればいいだろう。」
「プログラミングされたデータを相手にするのと人を相手にするのでは、得られる経験に天と地ほど差があるわ。だから…」
「今はそんな気分じゃない。」
そう言ってくるりと踵を返し背を向けると。
「ティエリアはいつもそればっかり。アレルヤやロックオンは相手をしてくれるのに。」
突然オニキスが口にした他のマイスター達の名前に、何かが胸の中をチリ、と掠めた。
「彼らは関係ない。」
背を向けていて表情を伺う事は出来ないが、返って来たのは微かに怒気を孕んだ低い声。
「ティエリア、そんなに私のことが気に入らない?」
「…」
オニキスのその言葉に、ティエリアは再び移動装置を掴み掛けた手をピタリと止めた。
「…ティエリア?」
他人に興味を抱いたことなど一度もないし、必要以上に干渉したいとも思わない。する必要もない。それなのにどうしてこの女は、そんな今までの俺を嗤うかのように、俺の中に土足で入り込んでくる。
「何でもない。」
「でも…」
「何でもないと言っている…!」
認めない。そんなものは必要ない。
真綿で首を絞めるように少しずつ俺を蝕む不安定な感情。
20080213
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