二人で暮らしていると、何気ない日常の中にふと一緒にいてよかったとしみじみ感じる瞬間がある。たとえば当たり前のように重い荷物を持ってくれる時。そしてたとえば、それは料理をしている時にも訪れる。

「んっ。かっ、たい…!」

冷蔵庫から取り出した豆板醤の瓶の蓋に大苦戦する。何故だ、甜麺醤の瓶は素直に開いたと言うのに。
生憎瓶開けなんて便利な道具は持っていないし、試しに布巾でくるんで力を入れてもびくともしない。早々に音を上げて、リビングで背中を丸めてバスケ雑誌を眺めている大我の所に持っていく。

「大我ー。」

「あ?」

顔を上げた大我は私と豆板醤を見比べ、ん、と手を出して瓶を受け取った。特別力を入れる素振りを見せるでもなく、一捻りで難なく蓋を開ける。

「おおっ。」

感嘆の声を漏らせば、大我は呆れたような表情を浮かべた。

「お前こんなのも開けらんねーの、弱っちーな。」

「大我と一緒にしないでください。見よ、この差。」

筋ばった逞しい腕の横に、自分の貧弱なそれを並べる。こうしてみると差は歴然だ。男の人のなかでも一際体の大きな大我の隣に並べれば、何だか自分が物凄く小さくなったような錯覚を覚える。

「細えな。ちゃんと食ってんのか?」

私の腕を掴んでぷらぷらと揺すり、折れそうだな、と大我が呟く。

「毎日一緒に食べてるでしょ?」

「あんなの食ったうちに入んねえよ。」

「大我が食べ過ぎなんだと思う。」

「普通だろ。紅子の飯美味いし。」

彼は一度自分の食べる量の多さを自覚するべきだ。けれど毎回何人家族ですかと聞きたくなるような大量の料理を残さずペロリと平らげてくれるのは見ていてとても気持ちがいいし、美味しいと言われれば作り甲斐がある。

「マーボー豆腐?」

「うん、もう出来るよ。ご飯よそって。」

「おー。」

豆板醤を受け取って、ぽんぽん、と大我の肩を叩く。のそりと立ち上がった彼とキッチンに戻る。本当に、とるに足らない小さなことだ。そんなささやかな幸せを一つ一つかみ締めながら、私は君と、毎日を生きている。





君といる日常

20131205
自分で開けられないやつカパッてされるとときめくよね、という話。



965TOP