「紅子?」
降り注ぐ大粒の雨を前に昇降口で立ち尽くしていると後ろから声を掛けられた。
「あ、火神君。」
同じクラスの火神大我君だ。特別仲がいいと言う訳ではないが、私と同じ図書委員の黒子君繋がりでよく言葉を交わす。
「帰んねーの?」
そういう彼は部活上がりなのだろうか、制服の袖を肘まで捲り上げ、スポーツタオルを首に掛けていた。
「傘持ってないの。」
ちらりと外に視線をやれば、あー、と間延びした返事が返ってくる。
「朝は晴れてたしな。俺も雨降ると思ってなかった。」
「何で傘持ってるの?」
「この前部室に忘れたやつ。」
「成程。」
納得して頷くと、火神君はばさりと大きな黒い傘を開いた。数歩足を進めれば、傘の上で雨粒が弾けバラバラと音を立て始める。
「紅子、家どこだ?」
「え?」
戸惑いながら大体の住所を告げると、火神君は意外と近ぇな、と呟いた。
「入れよ、送ってく。」
「へ?いいよいいよ、悪いよそんな。」
「待っててもたぶん止まねーぞ。」
「う。」
突然の申し出に尻込みする私に、火神君はほら、と傘をもたげて見せた。確かに、どんよりと暗い空には雲の切れ間など見えず、このまま待っていても止むことはないだろう。
「じゃあ、お願いします。」
「おう。」
そう言うと、彼はにかっと笑顔を浮かべた。火神君の傘に入る。隣に並ぶと顔が見えないくらい背が高く、傘が随分と上空に見える。ちょうど彼の肩先くらいが私の頭のてっぺんだった。普段男子とここまで密着することはないから、不可抗力的に触れ合う腕に何だか緊張してしまう。
「うし、行くか。」
「うん。」
「なあ、マジバ寄ってかね?腹へった。」
「いいよ、私もお腹空いた。」
けれどたまにはこんなイレギュラーが起きてもいいかもしれない。少しだけ胸を躍らせながら、雨の匂いを肺一杯に吸い込んだ。
あめあめふれふれ20131206
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