北風の吹き抜ける師走の渡り廊下を火神と並んで歩く。こんな寒い日にゴミ当番なんてツイてないけれど、火神と一緒だからいいか、なんて考える辺り、女子も結構単純だ。

しかしまだ陽が出ているとは言え、制服一枚で耐えられる気温ではない。どれだけ心が暖かろうが、北風の冷たさは容赦なく体温を奪っていく。ぴゅう、とご丁寧に効果音までつけて、一際強い風が頬を撫でた。

「寒い!火神寒い!」

「やめろよ、何か俺がスベったみてーになってんだろ。」

くだらない話で笑い合いながら校舎裏の集積所までゴミを運ぶ。因みに当たり前のようにゴミ箱は火神が持ってくれたので、私は彼の隣にくっついて歩いているだけだ。

「うっし、教室戻んぞ。」

「はーい。」

帰りもやっぱり火神がゴミ箱を持ってくれて、手持ち無沙汰な私は両手を擦り合わせたり爪をいじったりしながら斜め後ろを歩く。ふと、ふらふらと前後に揺れる火神の左手が目に入る。その手に触れる口実を思いついて、空中で遊ぶそれを両手で捕まえる。

「うおっ、何だよいきなり!」

「あれ?冷たい。」

手中に納めた火神の手からは、予想に反してひんやりとした冷たい温度が伝わった。

「火神絶対手あったかいと思ったのにー。裏切られた。」

「お前な。勝手に期待して裏切られてんじゃねえよ。」

「だって、あったかそうだったんだもん火神の手。火の神だし。」

「んだよ、それ。」

苦笑を浮かべながらも、火神は手を振りほどこうとはしない。まだ触れていてもいいということだろうか。

大きな手だ。当たり前だが自分の手と違って骨張ってごつごつしているし、指も太い。何も言わないのをいいことに、表を向けたり裏返したり、まじまじと眺めていると、やがてするりと逃げていく。

「え。」

逃げたと思った左手は、直後私の右手を包んでいた。ぎゅっと握られ、お互いの体温が交ざり合う。

「そういうお前は寒がってるわりにあったかいんだな。」

驚いて火神を見上げるが、少し先を歩く彼の表情は見えない。
あれ、予想外。この展開は予想外だ。これではまるで手を繋いで歩いているみたいだ。というか今、私と火神は完全に手を繋いで歩いている。どうしよう嬉しい。凄く嬉しいのだが、恥ずかしさがそれに勝る。

「ちょ、っと、人の手で暖とらない!」

「先に俺で暖とろうとしたの氏原だろ。」

「そう、だけど!」

どうしよう、自分から先に触れた筈なのに、心臓が爆発しそうだ。けれど私からこの手を離す理由が見つからない。

「嫌かよ?」

「嫌…じゃない。」

「なら、いいだろ。」

心なしかその横顔が赤く見えるのは気の所為だろうか。寒かった筈の身体は、今や暑いと感じるほどに暖まっている。





北風小僧に見せ付けろ!

20131203
意外と手が冷たかったら萌えますよね、という話。



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