付き合い始めて暫く経って、まだ少しぎこちないけれど、手を繋いで一緒に帰るようになって。他愛もない話をしながら帰路を辿る、水曜日の放課後。

「あ。」

「着いちまったな。」

気が付けばあっという間に自宅の前だった。また明日も会えると言うのに、まだ離れたくないと胸が疼く。

「また明日ね、火神くん。」

「おう、学校でな。」

ほどかれた手に名残惜しさを感じながら玄関先の門を潜ると、紅子、と名前を呼ぶ彼の声。軽く腕を引かれて振り向くと、思いの外近くにいた彼に視界を遮られる。
目を閉じる暇もない。ちゅ、と控え目なリップ音が響いた。ただ唇を押し付けるだけの少し乱暴なキスだったが、初めてのそれは、惚けるには十分な感触だった。

触れ合ったばかりの自分の唇を確かめるように指でなぞり、火神くんを見上げると、フイと顔を背けられる。その横顔は、夕暮れ刻のオレンジの光の中でもわかるほど真っ赤だった。

「ね、もう一回。」

一瞬の感触を何度も思い返して、出てきたのはそんな言葉。

「ばっ、」

明らかに動揺する火神くんの制服の裾を引っ張り催促をする。あー、とか、うー、とか唸りながらも、火神くんはキョロキョロと周囲を見回し、もう一度その長身を屈めた。

頬に暖かい手が触れる。
今度は、ちゃんと目を閉じた。

「火神くん、顔真っ赤。」

「お前もだっつの。」

「う。」

つん、とおでこを小突かれた。目が合うと火神くんはふと表情を緩め、ぽんと私の頭に手を置いた。くしゃくしゃと髪を撫でられて、また頬に熱が灯る。色恋沙汰は苦手そうに見えて、とても自然にこういうことをやってのけるので良い意味で心臓に悪い。

「じゃあな、紅子。おやすみ。」

「おやすみ、明日も朝練頑張って!」

「おう。」

ひらりと手を振り遠ざかる背中を頬の熱が収まるまで見送って、玄関の扉を開けた。





あかね色

20131202
基本鈍いけど一回スイッチ入ったらあとはひたすら無自覚タラシな火神を所望する。



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