「綺麗だね。」
「だな。」
煌びやかな電飾が施されたツリーを二人並んで見上げる。巷でも有名なイルミネーションスポットは、クリスマス当日を迎え多くの家族連れやカップルで普段以上の賑わいを見せている。
「考えてみりゃクリスマスに紅子と二人で出掛けんの初めてだよな。」
「そうだね、高校の時は大我ウィンターカップだったし。」
ちょうど大会の時期が重なり、高校時代はクリスマス当日にどこかへ出掛けることが出来なかった。精々試合の応援に行ったり、練習帰りにマジバで待ち合わせて話をしたくらいで、デートらしいデートはこれが初めてと言える。
「しっかし人すげーな。」
「クリスマスだしね。」
繋いだ手を離さないようにしないと人波に流されてしまいそうだ。まあ、人よりも頭一つ分抜き出た大我を見失うことはそうそうないだろうが、小さな子供なんて少し目を離せば簡単にはぐれてしまうだろう。そう思った矢先、視界の端に目元を押さえて踞る小さな男の子の姿が映った。
「ねえ大我、あの子…」
「迷子か?」
人波を掻き分けて、その小さな男の子の所に辿り着く。ねえ、と話し掛けると、男の子は涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げた。
「お母さんとはぐれちゃった?」
男の子はぐすぐすと涙を拭いながら、小さな頭を必死に上下に振って何度も頷いた。背の低いこの子が歩くには、人の往来が激しすぎる。きっと動くに動けずにここで泣いていたのだろう。
「おねえちゃん達と一緒に探そっか。」
「ままー…ぱぱー…」
「ほら泣くな、男だろ。」
またべそを掻き始めた男の子の前に屈んで目線を合わせると、大我はぽんぽんとその頭を撫でた。そしてひょい、と小さな体を抱えあげ、自分の肩の上に座らせる。
「大我?」
「上から探した方がはえーだろ。立つぞ、ちゃんと掴まってろよ。」
しっかりと男の子が頭にしがみついたのを確認してから、ゆっくりと大我が立ち上がる。二メートル近い身長の彼に肩車された男の子はそこからの景色にわあ、と歓声を上げた。
「うわあ、たかい…!」
親とはぐれてあれほど泣いていたはずが、一転して目を輝かせている男の子に大我が苦笑する。
「早くお母さん探せ。そっからならよく見えんだろ。」
「うん!」
彼の言う通り上空からの捜索は効果覿面だった。しばらく男の子を肩車したまま歩いていると、我が子の声を聞き付けた両親がすぐに駆け寄ってくる。
「本当にありがとうございました。ほら、ちゃんとお礼言って。」
「おにいちゃんおねえちゃんありがとう!」
「どういたしまして。」
「もうはぐれんじゃねーぞ。」
何度もお礼を言って去っていく家族を見送って、離れていた手を再び繋ぐ。
「大我、お父さんみたいだったね。」
ふとさっき大我が子供を肩車していた姿がよみがえる。いつかあんな微笑ましい光景を毎日見られるようになるだろうか。
「そうか?」
「うん。」
少しの沈黙のあと急に強く腕を引かれ、自然と大我との距離が縮まった。肩と肩がふれあう距離に何事かと上を見上げるが、目は合わない。少し俯き加減に視線を横に流すのは、彼が照れている時の仕草だ。
「俺らもいつか、ああやってガキ連れてここに来れるといいな。」
「…うん。」
どうやら彼も同じことを考えていたらしい。少し熱い頬をマフラーにうずめ、ぎゅっと力が籠められた大きな手に応えるように握り返した。
Dec.25th20131225
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