ごつん。

目的地の駅に到着して電車から降りる時、頭上でなかなか豪快な音がした。

「大我?」

驚いて隣を見上げると、彼はどうやら身を屈めるのを忘れ、ドアの上部で強かに頭をぶつけたらしい。

「痛え。」

「だ、大丈夫?」

「まじでイテーんだけど。」

額を押さえてふらふらと電車を降りる彼を見て、背が高過ぎるのも不便だなと思う。

「大我」

「何だよ紅子…」

背後で発車する電車の音を聞きながら手振りで屈んで、と伝えると、彼はまだ少し涙目のままその場で長身を折り畳んだ。いつもよりうんと近くなった頭に手を伸ばし、そっと触れる。

「痛いの痛いの飛んでけー。」

よしよしと撫でてやると、大我は目を丸くした。こんなに背が高かったら、誰かに頭を触られることなんてあまりないだろうな、などと考えながら、指通りのよい赤い髪を指で梳いてやる。

「ガキかよ、俺は。」

大我は少し居心地悪そうに視線を泳がせた。照れているんだろうか、頬がほんのりと赤くなっていて何だか可愛い。そう言えば、背の高い男の人は頭を撫でられるのに弱いんだとか何とか。

「これで痛いの治ったでしょ?」

冗談めかして聞いてやれば、頭を撫でている手を掴まれる。何だろうと思っていると、大我が僅かに首を右に傾げ、彼の唇が吸い寄せられるように私の左頬に触れた。今度は此方が目を丸くする番だった。

「まーな。もう痛くねーわ。」

ぽん、と頭に手を置かれ、またいつもの距離に戻る大我と私の身長差。まだ心臓がとくとくと音を早めている。

「不意打ちなんてずるい。」

「それは俺の台詞だっつの。いきなり頭撫でるとかお前のがずりー。」

左頬を押さえて見上げると、彼は私が撫でていた辺りの髪をくしゃりと握り締めた。

「嫌だった?」

「……嬉しかった。」

「素直。」

「うるせ。」

ふとお互い頬を緩め、笑い合って手を繋ぐ。背が高い君の世界は、きっと私とは感じ方も見え方も随分と違うのだろう。けれどそんな世界のなかに、こうして私が映ることが出来るのが、この上なく嬉しい。





彼と私の世界

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